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喧嘩とクリスマス

父さん? 誰の?………千の? 千の背中の痛々しい古傷を思い浮かべてカッと頭に血がのぼる。 目の前にいるこの狐目の男が、奥さんの不貞を全部相手の男のせいにして、その鬱憤を全部千にぶつけた人なんだ。 人をこんなにも嫌悪感を持って見たのは初めてかもしれない。 「え!?月城先生の息子さん!?随分男前ですね!」 若い男が興奮気味に言うと、父親はまぁね、と笑いまた千に目をうつした。 「全然家に顔出さないでひどいじゃないか。父さんは寂しいよ」 ああ、そういえば愛妻家で、血の繋がってない息子にも惜しみ無く無償の愛を注いだ心優しい医者って、有名なんだっけ? 何が寂しいだよ。何も悪くない子供に全部背負わせて痛め付けたくせに。 白々しい笑顔に、ぎゅっと拳を握った。 「最近は仕事が忙しくて、また近々寄ります」 千のまるでこの人が望むことをそのまま言ってるかのような台詞と笑顔に信じられない思いで見上げた。 なんで?悔しくないの? 「千、こちらの可愛らしい子は?もしかして将来の僕の娘かな?」 父親と目が合い、思わず顔がこわばってしまう。 それから、辛うじて笑って会釈をした。 「……いいえ?この子は学校の生徒です。こんな容姿ですが男の子ですよ。たまたまそこで会ってついでに車で送ることになったんです」 「ああそう。孫の顔を見る日も近いのかなって一瞬喜んだのに」 上っ面だけの笑顔と、会話。 それなのに、胸がズキズキ痛んだ。 「うわぁ!やっぱり月城先生の息子さんは先生に似て優しいんですね!」 「はは。ありがとうございます」 なんで、千が、こんなやつ庇わなきゃいけないわけ!! 「先生、オレ体調悪いから、早く送ってよ」 会話に耐えきれず、千の腕を引っ張った。 オレを見下ろす父親の顔を一瞬だけ睨む。 「父さんにつけられた背中の傷がいたくて仕方ない。気分も悪いから、早く帰りたいんだってば」 嫌みのように言うと、千と父親がそろって目を見開いた。

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