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喧嘩とクリスマス
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「────はい、疑ってごめんね」
体が硬直して動けないまま、時間にしてほんの5分くらい。
おじさんは、優しく笑って押さえていたオレの手を解放すると個室から出ていった。
何をされたかよく分からなかった。
呆然としたまま一人残され、ゆっくり立ち上がるとふらふら洗面台に手をついた。
服を捲られて、胸を触られた。
そのままズボンもおろされて、下を少し弄られた、だけ。
"小さいけど、ほんものだね?"
恥ずかしいのか悔しいのかよくわからない。
手がカタカタ震えたのが情けなくて、乱暴に洗うと、ハンカチを突っ込まれた口もゆすいで、トイレを出た。
ちょうど入ろうとした人がオレを見てぎょっとする。
また、女の人に見えたのだろうか。
そう思うと悔しくて、この人は悪くないのについ睨んでしまった。
そのまま早足で駐車場に向かう。
いや、あの人仕事だって言ってたし、なにかをされた訳じゃない。
性的な何かをしたいなら、もっとほかに出来たはずだ。
何度かそういうことがあったから、オレが敏感になってるだけだって。
自意識過剰になってるだけだ、勘違いして恥ずかしい。
どんって誰かにぶつかって顔も見ないで「すみません」と小さく謝ってそのまままた歩き出そうとした。
「リチェール?」
名前を呼ばれて顔をあげると、千が眉を潜めて立っていた。
「千……」
「電話にもでねぇし。何て顔してんだよ」
とんっと、抱き寄せられて背中を撫でられる。
ふわっとタバコの匂いがして気持ちがふっと楽になるのを感じた。
「なにかあっただろ?大丈夫か?」
「………なんでもない。」
心配そうに顔を覗かれて、笑って顔を振った。
なにもなかった。
少し、勘違いされただけで。
「うそつけ。隠すと怒るぞ」
千がそれを言うかな。
さっきの今でさ。
どうしたって、素直に話す気になれない。
「仲直りできるか不安で変な顔になってたのかなぁ。さっきはガキくさいことしてごめんね」
昔から、笑顔を作ることも思ってもないことを口にすることも得意だった。
それなのに、オレの笑顔を見て千は難しそうな顔を見せる。
そして色んな感情を抑えるように深くため息をつくと、千はオレの頭に手を乗せた。
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