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喧嘩とクリスマス

「……さっきのことは謝る。ごめんな」 思ってもなかった千の言葉に、びっくりして顔を上げる。 千はどこか切なそうに笑っていた。 「俺があいつのそばにいることで傷付くんじゃないかって悪者になって連れ出してくれたんだよな」 ……そんな綺麗な気持ちじゃない。 ただ、千を傷つけたあの人が許せなかった。 それだけだ。 子供っぽい八つ当たりのような感情に千は寄り添うようにオレの髪を柔らかく撫でた。 バツが悪くてつい顔を背けると、千の手に握られた紙袋に気がついた。 そこそこ大きさのある縦長の紙袋からはクリスマスツリーの箱がちらっと見えていて胸がズキっと痛んだ。 「クリスマス。楽しみだったんだろ?」 オレが見ているものに気が付いたのか、千が苦笑をこぼす。 あんな喧嘩のあとも、千はオレが買おうとしていたものを買うために一人でお店を回ってくれていたんだ。 オレは一番嫌な思いをしただろう千に酷い言葉をぶつけて置き去りにしたのに。 「……千、ひどいこと言ってごめんなさい」 いつもオレ一人で空回って、千は全部受け止めてくれる。 本当とことん、ガキみたい。 「好きなやつ傷付けられたら、本人がよくても腹立つよな。リチェールの気持ちよく分かってたはずなのに、俺も無神経だった」 人目も気にしないで、気持ちごと包み込んでくれるように優しく抱き締められた。 そうだよ。 父さんが日本に来たあの時、どうにかしてほしかったわけじゃなくて、気持ちに寄り添ってくれたことが嬉しかったんだ。 すぐに親に連絡したいけど、オレが落ち着くまで一旦待つと言って冬休みまで連絡を控えてくれた。 父親と寝たあの家で、上書きしたいって言いながらも、オレに嫌われたくないからってオレが誘うまでこんなことがあった後でも好きだって気持ちを話してくれるだけだった。 千はずっとそうしてくれていたのに。 「……千は悪くない。勝手な事してごめんなさい」 「謝るなよ。俺の代わりに怒ってくれたんだろ。ありがとう」 「だって、あの糸目クソジジイムカつく……」 「ムカつくよな。俺も普段は着信拒否にしてるし、人目がないところで結構やり返してるよ。今はそんなガキ臭ぇことしないけど」 そっか。やり返してるんだ。 それが嘘かホントかわからないけど、少し気が晴れる。 ああ、やっぱりこの人には敵わない。 ………いつか、オレもあなたくらい器の広い男になるから、そうしたらあなたの悲しい過去に少しでも寄り添っていいかな。

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