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気まぐれ
蒼羽side
最近友人に、恋人ができた。
「せーん、またリチェール見てる」
草薙のバーのカウンターで、酔っぱらいに絡まれてる金髪の男の子ばかりを目で追う千にからかうように笑うと、タバコを長い指で取りだし、カチッとジッポで火をつけた。
このジッポも恋人からのクリスマスプレゼントらしい。
女って男から貢がれて当たり前ってイメージだったし、無駄に金を食うタバコをやめてと結婚もしてないのに、身体が心配だからという大義名を押し付けてるやつばかやだと思ってたけど、中々いいセンスしたジッポに感心する。
千にはライターとか電子タバコより紙タバコとジッポが絵になって良く似合う。
いくらここの時給がいいからって、高校生がそれを買うには安くはないだろうに。
ま、そもそもリチェールは女じゃないけどさ。
「冬休み中に引っ越しするんでしょ?どう?終わりそう?」
「あぁ、引っ越し業者雇おうとしたら荷物が少ないんだから要らないってリチェールが騒ぐせいで遅れてる。
俺が金出すっつってんのにな」
てか、千が出すっていうから業者雇うの渋るんでしょ。
段々リチェールの性格もわかってきた。
「あ!そういえば聞いてよ千。この間誘ってきた男がさぁ…」
「あの、すみません。よかったら私たちと飲みませんか?」
千にこの間の早漏野郎の話をしようとした瞬間、20代半ばくらいの女三人が群がってきてイラっとした。
うるせーよメスブタ。視界から消えろ、と暴言を吐こうとしたら、千にスッと口を押さえられた。
「悪いけど、仕事の話してるんで」
「え、あ、ごめんなさい!」
千の胡散臭い営業スマイルに顔を赤くして女共が散っていく。
「チッ身の程知らずのブスが」
手を離され悪態をつくと、千が呆れたようにため息をつく。
「お前さぁ、草薙さんは顧客なんだろ。
その草薙さんの店なんだからちょっとは我慢しろよ」
「はー?無理に決まってんじゃん」
ケラケラ笑って接客中の草薙を目で追う。
僕が、あいつに気を使う?ありえない。
「むしろ、客の管理くらいちゃんとしてろって文句言ってやる」
「はぁ……で、今日は?帰るなら送るけど」
千は僕が女嫌いなの知ってるからそれ以上はなにも言わない。
やっぱり千といる時間が一番気が楽だ。
「草薙の家に泊まるから、先に帰っていいよ。
リチェール、そろそろ上がる時間でしょ?」
時計を見ればそろそろ10時。
リチェールは自分目当てできてくれたお客さん一人一人に律儀に挨拶に回っていた。
その客の一人にお尻を触られ客だからか怒るに怒れず困ったように笑うリチェールを見て千が目を冷たく細める。
「また、あいつは」
すごいよな、あの千が嫉妬してる。
僕には一生その感情はわかないだろう。
千がリチェールと帰ると、草薙が気を使って話しかけてきた。
「蒼羽さん先程はお客様が大変失礼しました」
「ほんとだよ。気を付けてよ、僕女でも殴るからね?」
てか、女に触られたらつい殴ってしまいそう。
それくらい女は受け付けない。
脅す意味で笑うと、草薙が苦笑する。
「蒼羽さんどうします?閉店までまだまだかかりますし、俺ん家で待ってていいですよ?」
「いいよ。待つのに飽きたら別の男引っ掻けて店でるし」
「それがいやだから家で待っててほしいんですけどね?」
「あは。なにそれ嫉妬?うっざーい」
冗談っぽく笑う草薙に、皮肉の笑顔で答える。
草薙は口ではこう言うけど、恋愛面は僕に負けず劣らず冷めてる。
少し前に、女の子とはしないの?と聞いたら、「デキたら厄介でしょ。まだまだ仕事に専念したいんで」と言っていた。
だから特定のだれかを作るつもりはないらしい。
とは言え、草薙はモテる。千みたいに漫画みたいなモテ方じゃないけど。
身長は180㎝ある僕より五センチくらい高くスラッとして、少しタレ目なのも優しい雰囲気を作り出して整った顔をしてる。
まだ26なのに、借金なしでこの規模のお店を構えたのもすごいと思う。
遊ぶ相手がちゃんとモテる男ってのは鉄則だよね。
じゃなきゃめんどくさい束縛が始まってしまう。
そう思いながら白ワインを飲んでいると、スマホに知らない番号から着信が入った。
んー、最近だれかに番号教えたかな?
たまにしか遊ばない男はいちいち登録することすらめんどくさくなって、登録されてない人は結構いる。
「はいはーい」
「蒼羽?」
とりあえず出てみると、聞き覚えのない声が聞こえた。
んー、誰だろ。
今日は一応もう草薙と約束してるし相手する気、ないんだけど。
「んー、だれ?」
「お前、登録してなかったのか?
兵藤だよ!先週の木曜また近々会おうって約束しただろ!」
木曜?あー、なんかいたかも、オラオラ系のイタイ早漏野郎が。
顔は悪くないけど、早い上にセックス下手なんだよね。
してる最中の言葉攻めもウザい。
こいつはもう、なしかな。
「悪いんだけど、相性よくないからもういいかな。別の相手探して」
「はぁ!?いや、俺はお前を手放す気ないからな!今どこだよ!」
うわっ、なにこのがっつきよう。
始めにキツくめんどくさいのは嫌いだし、僕がなしだってなったらすぐ終わりだって念を押して関係を持ったのに。
久しぶりにめんどくさいのに引っ掛かったな。
「うざ!悪いけど、手放すもなにもお前だれだよって感じだし」
ははっと笑うと、電話の向こうから、ああ!?と怒りを含んだ声が聞こえた。
これでもう僕には関わろうとしないだろう。プライド高そうだし。
「じゃーね」
と、一方的に電話を切ると、一連のやりとりを見ていた草薙が呆れたようにため息をついていた。
「あんた、そのうち刺されますよ?」
「その時は草薙に盾になってもらおうかな」
にこっと笑うと、草薙がハッとどうでも良さそうに笑う。
年下の癖にかわいくないやつ。
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