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気まぐれ
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「__っぁん… んぅ………っ」
殺風景な1DKの部屋に水音と僕の声だけが静かに響く。
草薙とのエッチは、楽でいい。
無駄な会話も、余計な戯れもなくて、手っ取り早く気持ちよくなれるし、体の相性もあってる。
少し余裕の無さそうな顔をして草薙の動きが激しくなり、押し寄せる快楽に思わず草薙の背中に爪を立てた。
「………っ蒼羽さん」
知り尽くされた敏感な場所を激しく突かれ、あっけなく二度目の精を放った。
「………っ……は、やく…イってよ……っ」
「はっ……もう、限界ですか?」
仕事中はオールバックにしてる長めの髪をおろした草薙は、少し意地悪に見える。
草薙のくせに、生意気。
そう思うのに、快楽に遮られ悪態のひとつもつけない。
終わりに向かうにつれ激しくなる行為に頭が真っ白になっていく。
彫り師の僕の客して草薙と知り合って、こんな関係になるまで時間はそうかからなかった。
あの日、珍しく僕は酔っていた。
その頃はよくセフレ達が束縛を始めて、一気に切っていた時期で、少しイライラしてたのもある。
だから、客である草薙の背中にその日の分の墨を入れ終わったあと、誘われて気が向いたから飲みにいって、酔って、まぁ流れで。
正直ただの気まぐれ。
キスをされたから、応じた。
その先を求められたから抵抗をしなかった。
それだけ。
別に面倒なことになりそうなら切ればいいと思っていた。
今はどこのどいつよりも一番相性もよく、気が楽にいれるセフレ。
ただ、あの初めて体を重ねた日以来、キスをしたことはなかった。
別にしたいとも思わないけど。
「水、飲みます?」
「ん」
渡されたミネラルウォーターを受けとり口をつける。
「風呂、入れそうならお湯溜めますけど」
「そ。おねがい」
情事の最中ですら執拗に求めてこない草薙は、セックスのあとよく気をかけてくれる。
普通の男なら逆だと思うけど。
ヤるまでは優しいけど、ヤったあとはお互い会話はないというか。
ヤッた後も戯れてくるやつは、大体本気になっちゃっためんどくさいやつ。
そんなのはさっさと切っちゃうのがいつもの僕のパターンなんだけど。
草薙は、エッチのあとぶっきらぼうに優しいけど、僕のこと好きって感じではないよね。
だから、セフレの中でも特別。
恋愛感情がなくて、用もすんでるのにこうして優しいのって、打算も下心なしのきれいな気持ちに思える。
そう言えば、リチェールはエッチのあと気を失ってしまうことが多いと千が心配していた。
そりゃあ、いれる方よりかはこっちに負担はかかってると思うけど。
気を失うほどかな?
あれだけ細いし、リチェールが貧弱がなんじゃないの。
もしくはよっぽど激しいか。
なんて、友人の床事情なんて、想像もしたくないっての。
「あ、電話。ちょっととりますね」
バイブしたスマホを、僕に一言ことわってとる。
興味ないから僕は返事はしないでベットにごろんと体を反転させてつきっぱなしのテレビに目を向けた。
「もしもしー?おつかれー。どうしたの暁くん」
お店にいるときの優しい声が聞こえる。
猫かぶりめ。
「え、大丈夫?
お店のことは全然いいよ。
気にしないで、ゆっくり休んでね。
はーい、お大事に」
電話を切ると、またすぐ画面をスライドさせて誰かにかけた。
「もしもし。お疲れ、ルリくん。今大丈夫?
あのね、暁くんが明日お店休むことになって。急で悪いんだけど、出勤できないかな?うん、ありがとう。助かるよ」
リチェール明日出勤なんだ。
千も本当はリチェールにバイトやめてほしいくせによく我慢してるよ。
リチェールも千の言うことはなんでもハイハイ聞くくせに、千に養ってもらうのは何がなんでも嫌らしい。
二人を見てると、ほんと人って好きな人ができたら変わるんだなって思う。
昔の千からは想像もつかない。
いいことだとは思うけど、僕には無縁の話だ。
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