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気まぐれ

振り返った驚いたような表情の蒼羽さんが、若干引いたような半笑いを浮かべる。 「え、なに?てか、草薙そんな顔できたの?」 どんな顔だよ。 まぁ客を放り出して動くくらいには感情的になってる自覚はある。 ああ、だめだわ。これ。 ずっと、この人に本気になったら逃げてしまうとわかっていたからセーブをかけていたけど。 「………松岡さんすみません。 この人、は譲ってもらえませんか」 つい、乱暴に蒼羽さんを引き寄せて、無理矢理腕の中におさめる。 そういえば、セックスをするだけで抱き締めたり、キスしたり当たり前のことをしてなかったなと、華奢な肩を抱いて思う。 「なに言ってんの? それ僕が決めることだし。てかさっきの女は?」 それでも抱いとけば、なんて人の気も知らないで蒼羽さんがどうでも良さそうに笑う。 「うーん。草薙さんとは今後ともよくしていきたいし、こんな草薙さん珍しいからね。 いいよ。俺が手を引こう。草薙さん、今度サービスしてよ」 「ありがとうございます。とっておきのワイン取り寄せておきますね」 何食わぬ顔で笑って身を引く松岡さんに、は?という顔をしながらも、去る相手を追わない主義の蒼羽さんは、松岡さんがいなくなって呆れたように笑った。 「なんなの草薙。 まだ心配とか言ってくるの?」 「まぁ、そうですね」 「あはは。らしくないね?あと正直、うざいよ?」 「ほんと、らしくないですよね、俺」 相変わらず、人の気持ちを見抜いたような透き通った目で、感情なく笑う蒼羽さんの後頭部を押さえつけて、無理矢理唇を重ねた。 「………っ……な…………んぅ………っ」 驚いたように体を一瞬強張らせたものの、すぐ抵抗をやめる。 キスしたのは初めてしたとき以来だ。 雰囲気作りのためにしたけど、蒼羽さんが求めてるものはこれじゃないと察してするのをやめた。 唇を離して、戸惑ったように俺を見上げる顔を見て、どこか吹っ切れた。 「そもそも、男としてる時点で俺らしくなんかねーっての。 蒼羽さん、あんたが誰と遊ぼうが好きにさせますけど、俺がこいつはダメって判断したやつとはしないでください」 本当は嫌だけど、結局そんな気ままな人を好きになった俺の最大の譲歩だ。 「は?やだし」 相変わらず自分のことを人に決められることを嫌う。 だから、踏み込めなかった。 もう、そんなのはどうでもいい。 蒼羽さんが月城さんを好きでいようとなかろうと。 蒼羽さんが遊び人だろうと、わかっていたことだ。 縛るつもりはない。 ただ、俺もこれ以上譲るつもりもない。 「なに?草薙。僕に惚れちゃった?そーゆー面倒なの嫌いなんだけど」 バカにしたように笑う蒼羽さんに、ほんとなんでこんな人を好きになったのだろうと思うけど。 素直に認めてなんて、やらない。 「いえ? 松岡さんはうちの常連なんで。 俺も面倒なのが嫌いなだけですよ。奇遇ですね?」 スッと蒼羽さんの目が細められる。 これで切られたらそこまでなんだろうけど。 ってか。 正直かけだ。さっきのやきもちだろ?と自分の都合のいいように甘い解釈してしまってる。 「……まぁ、利害が一致するなら、それくらいは妥協してあげるけど。 その代わり今日ちゃんと相手してよ?」 「はいはい」 ちゅっと蒼羽さんの唇に軽くキスをする。 「なにガキ臭いことしてるの」 冷たく鼻で笑いながらも、一瞬驚いた顔をするから。 「別に。こう言うことしてこなかったなって、気まぐれです」 俺らの関係は、相変わらず希薄なものだ。   でも、近付いたら離れるこの人の扱いは難しいけど、病み付きになってしまってる自分をもう受け入れることに抵抗はなくなっていた。 この人落とすとか、無謀にも程がある。 それでもやめれないのだから、どうせなら楽しんでやろうと、目の前の女王様を横目にひとつため息をついた。 気まぐれ end

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