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信用
「……せ、ん………」
一言喋っただけで、自分が怯えてることが嫌というほど滲み出た声が情けなくて口を閉じた。
「怖いか?」
いつもの優しさは欠片も感じられない無機質な声に、ふるふると首を降った。
怖くなんか、ない。
千になにされても怖いなんてあるはずがない。
「……ああ、そう」
千の手がするっと服のなかに忍び込んできて、ビクッと体が揺れる。
するの?
何で、オレなんかと今?
千がなに考えてるのかわからない。
「怖くねぇならいいな」
その言葉と共に体を反転され、千の顔が見えなくなる。
バックは苦手だった。
顔が見えなくて、千じゃない人としてるみたいで怖かったから。
本当にオレ達の終わりを知らせてるようで、最後ならと震える体を押し付けるようににぎゅうっとソファに顔を埋めた。
優しさも感情もない行為に切なさばかりが増す。
押さえても漏れしまう声がまるで泣き声のようで、唇を噛んだ。
だって、こんなオレが千と名前を呼んですがることすら許されるはずがない。
_____目が覚めると窓の外は完全に明るくなっていて、時計は昼前を指していた。
家の中に千の姿はなく、やっと薬が切れたのか、霜を張ったような頭のもやはなくなり、脳が働き始める。
漠然とオレ達は終わったのだと感じた。
こんな状態でも、体は綺麗に後処理をされていてソファだったはずなのに服を直されベットに移っていた千の人の良さが出てる。
……………うん、最後にできてよかったよな。
少なくともカズマさんのことは上書きされた。
出ていこうと立ち上がった瞬間、エレベーター下のベルの音がした。
鍵を持ってる千がベルをならすはずはないけど、もしかしたらと少しの希望にすがるようにインターフォンを覗く。
「…………純ちゃん?」
そこに映っていたのは、なぜか純ちゃんだった。
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