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信用

千side 学校が始まるまであと4日。 俺たち教師陣は自由出勤ではあるが、何かとそれなりに忙しい日々を過ごしていた。 出勤するも、思わずため息をついてしまう。 あんな状態でリチェールを置いてきたけど、あいつ出ていこうとなんてしないよなさすがに。 リチェールは底抜けに優しいから、傷つけられても相手を庇うのはわかっていた。 あと強がりだから怖かったことを隠すのも。 今日のあれはなんだ? 最近は少しずつ怖いとか、自分の感情を言えるようになってきていたはずなのに。 今までの強がりは違う、本当に自分が全て悪いと言うように投げ出した言葉だった。 変に相手を庇おうとするから、怖がらせてやろうとした。 いつもみたいに、泣いて怖いと言えたらやめてやるつもりだった。 漏れた声で泣いていることはわかったけれど、リチェールは、怖いともやめてとも言わずひたすら耐えてすぐ気絶してしまった。 あいつの強がりがイギリスに行って以来、少し悪化してる気がする。 なにがあったか聞いたら、どうしてああなったか、あの男は辛かったんだと庇おうとして、止まり自分がすべて悪いという。 合意の上じゃないことはわかっていたし、震えていたことにだって気付いてた。 イギリスであいつの母親との溝を少し埋めたことはいいことだと思ってるけど、そのせいでリチェールは余計に自分の痛みより人の痛みに敏感になってしまった気がする。 疑うくらいなら、傷ついてもいいから信じたい。 真っ直ぐなその性格に惹かれた部分は大きいし、リチェールがそういうやつだとわかって好きになったのは俺だけど、いい加減もう自分のことを大切にしてほしい。 叩いてしまったときのリチェールの表情が頭から離れない。 とりあえず、バイトはやめさせよう。 もうだめだ。 どうしても働きたいならアルコールを提供しないとこだ。 それから、今日はリチェールがちゃんと理解するまで時間をかけて説得するしかない。 「千くーん、今日は朝から純也貸せってどうしたの?珍しくない?」 横のデスクからひょこっと遅れてやって来た佐倉が顔を覗きこんできた。 「ああ、悪いな。リチェールが最近危なっかしくて」 「え?ルリくんが?あんなにしっかりした子なのに?」 リチェールがあらぬ暴走をしてどこかにいかないよう念のため見張りをつけた。 しっかりした子? たしかに俺もリチェールのこと最初はえらく大人びてると高校生らしからないと思ってたけど、今はあんなにあぶなっかしいやつ他にいないと思ってる。

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