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信用

前半でほとんどの仕事を終わらせた俺と佐倉は昼飯を外で一緒にとっていた。 「え!?ルリくんそこまで自己犠牲ひどいの!?」 言うつもりはなかったが、佐倉の何があったか教えろコールがうざかったのと、リチェールの見張りで原野を借りたことから、仕方なくそういう傾向が元々あったことと、今回のことを少し濁して伝えた。 「いやー、まぁでも仕方ないかもねぇ」 テーブルの向かいで苦く笑いながら佐倉がチキン南蛮をひとつかじる。 「ルリくん、元々本当になんでも一人でやっちゃうような子だし、なんでもできるじゃん。 親に頼れない状況下で幼少の頃から培ったものでしょ。早々なおらないと思うよ」 「直すに決まってるだろ。俺の心臓がもたねぇよ」 「あはは。千くんがんばれー」 音も立てずに静かに味噌汁を飲み、佐倉はまたケラっと笑う。 「でもさぁ、すごいよね。 そんな幼少期なら、もっとひねくれて育っててもおかしくないのに、こんなに人の痛みに敏感になるもんかね。 今回は悪目立ちしちゃったけど、そこはあくまでルリくんの良さだと思うよ。俺は」 そんなことは、とっくにわかってる。 俺も佐倉の話を聞きながら、少し冷めてしまったご飯にはしをつけた。 人の痛みに敏感というよりは、自分の痛みが麻痺してるような。 今回のリチェールは何かに取り憑かれたかのように、どこかまともじゃない気すらした。 「純也が子供っぽすぎるのもあるけど、やっぱりルリくん同学年の子に比べて甘え知らずというか大人だよ。うん。 クラスで見ててもそう思う。 でも、まだ17だよ?俺たちと一回りくらい違う子供だからねぇ。 ここは時間かけるところなんじゃない?」 大人っぽいか? 佐倉は知らなくて当然だけど、リチェールは意外に泣き虫だし、弱虫だし。 なんでもできるやつだけど、肝心なところで不器用だ。 とはいえ、子供に見えてるわけでもなかった。 「しっかりしてよ、千くん。 俺、かなり千くんのことリスペクトしてるんだからね?」 「はぁ?」 半笑いで目を向けると、ニッと佐倉が笑う。 「判断も行動も早くて、ルリくん抱えてる一番の問題をすぐ解決しちゃったじゃん。すごいよ。 俺はまだなにもしてあげれてないもん」 それは原野のことを言ってるんだろう。 佐倉は少し困ったようにお冷やを継ぎ足した。 「はーぁ。しかも純也のことまたルリくんにとられたー。 ねーねー、レンタル料とっていい?」 「リチェールに対して妬くんじゃねぇよ」 ようやく自分からははっと笑いが漏れると、佐倉もほっとしたように笑う。 帰ったら、少しは穏やかに話せそうだと残りの飯を片付けた。 「あり?純也から電話だ。 ほいほーい。純ちゃんどうしたの?」 携帯をポケットから取りだし、ほんの2コールでとる。 原野からってことはリチェールも一緒か。 「え……っ?ルリくんが? ちょっとまって純也。泣いてちゃわかんない」 聞こえてきたリチェールの名前に顔をあげると、佐倉も焦ったような顔で俺を見ていた。

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