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信用

リチェールside 純ちゃんは勉強を教わりに来たらしく、オレもすぐに準備して近くのカフェに向かった。 オレはもう冬休みの課題は終わってるから、純ちゃんに教えながら復習する。 「よし、少し休憩しよっか」 最初の頃に比べて格段と解ける問題の増えた純ちゃんの課題はスムーズで、キリのいいところで休憩を挟んだ。 「頭使って疲れたでしょ?なにか甘いの買ってくるね」 デザートを追加注文しようと立ち上がると、純ちゃんに手を引かれ止められる。 「ルリ、月城となんかあっただろ」 ドキッとしながらも、何でもないように笑うのは得意だった。 何かあったもなにも、別れますよオレ達。 そう思うと、全身から力が抜けてしまうようだった。 「お前今日おかしいよ。空元気だし。お前普段ならもっとうまく隠すだろ。バレバレなんだよ言えコラ」 じとっとかわいい純ちゃんに睨まれて、どうしようか悩みながらも仕方なく今朝のことを話した。 しかもこれがはじめてじゃなくオレが常習犯で千に今度こそ愛想尽かされたかもしれないことも全部。 純ちゃんは唖然として聞いていて、聞き終わると黙り混んでしまった。 「…………ごめん、キモいよね、こんな話」 「いや………」 純ちゃんは優しいから、絶対引いてるのに理解しようとしてくれてる。 失敗した。 純ちゃんまで離れて行っちゃったら、オレ立ち直れないかも。自業自得だけど。 やっぱり誤魔化すべきだったかな、と苦笑するとポツリと純ちゃんが口を開いた。 「………ルリの話し方には、自覚あるのかわかんないけど、相手庇うような言葉が多いじゃん。カズマ?ってやつも切羽詰まったような顔してたのに、オレが気づけなくて、とか」 「え?そう?」 「そうやって、自分を襲ってきたやつを庇ったり、許したりするの、だめだろ」 ………許すも、なにも。 オレが信用せずに傷付けた結果だった話もしたのに。 純ちゃんは苦虫を噛んだような顔をして一息つくと、オレをまっすぐ見上げた。 「ルリが許したら、それは強姦じゃなくて浮気だよ」 鋭い言葉に胸がズキッと痛む。 ………その通りだと思った。 「疑うくらいなら、傷ついてもいいから信じたい? ルリが車に乗ること一回断ったから相手が傷付いた? 犯されたことあるからって、疑うようになるのは…って言うけどさ、それだから月城はいつまでも心配するんだろ。 お前さ、大切なやつ選べてる? そんな奴の車に乗らなくて当然だろうが。死にそうなほど辛いって言ってたなら、じゃあ病院行けって言ってやれよ。 ルリがちゃんと物事を疑ってかかるように警戒心のつよいやつになって初めて月城も安心できるようになるんじゃねぇの?」 「……………本当に、そうだね」 下らないプライドを守って、一番大切な人が離れた。 どうしてオレは、これを千に捨てられてしまう前に気付けなかったんだろう。 「月城に愛想尽かされても仕方ないよ。 そうなる前に直せよ。 じゃなきゃルリを大切にするやつみんな諦めて離れてくぞ」 「………うん、ごめん………」 純ちゃんも泣きそうな顔してる。 オレのために言ってくれてるのはわかってる。 誰を庇って、誰を傷つけてるんだろうオレは。 離れていった千の背中を思い出して拳を握りしめた。 ヴーッと机に起きっぱなしだったオレのスマホのバイブの音で、気まずい沈黙が途切れた。 画面を確認すると、公衆電話と表示されていて、首をかしげる。 少し考えて、ピンときて慌てて電話をとった。 「もしもし」 「…………も、もしもし。ルリ?」 案の定聞こえてきた声は、不安げな女の子の震えた声。 「あゆむちゃんだよね?電話嬉しいよ。どうしたの?」 離れて寂しいと泣く女の子にオレの番号を書いたメモを渡していた。 身を切られる思いでこの子と離れたから、どこかホッとする。 「ルリ………あのね……あのね………っ」 だんだんか弱くなっていく声に、泣いてしまうんじゃないかと心配になって、極力優しい声を心がけた。 「うん、どうしたの?」 「………たすけて、ルリ………。 お父さん………ったすけて…………」 「助けて?まってあゆちゃん、落ち着いて今の状況教えて?」 状況がわからなすぎて、少し焦る。 純ちゃんも不穏な雰囲気を感じ取ったのかオレを心配そうに見ていた。 「っ会いたいよぉ………っ」 小さな女の子の泣き声に胸を締め付けられる。 お父さん? たしか、お母さんは出ていってしまって毎日お酒飲んでるお父さんがいると言っていた。 「うん。あゆちゃんが電話してきてくれたらすぐ会えるって言ったでしょ? 会いに行くよ。この間のモールから、お家近い?」 「………少し、遠い……」 「うーんと、お家の近くになにか有名な建物とかないかな?」 こんな小さな女の子が自分の家の住所を言えるとは思えない。 公衆電話で、あゆむちゃんがいくらもってるかもわからないから自然と焦りが出ていた。 「………○○公民館………」 「うん、わかった。 そこにね、2時間待ってから向かってもらっていい?」 「ルリに………会えるの?」 「うん。すぐ向かうね。あゆちゃん、頼ってくれてありがとう」 「ルリ、ごめんね………あゆ」 会話の途中でプープーと電話終了の音が響いて、小さく舌打ちを打つ。 やっぱり時間切れが早かった。 「お話の途中でごめん、純ちゃん。ちょっとオレ行ってくる」 「え!?は!?」 コートと、クラッチバックを持って立ち上がると、純ちゃんも状況が理解できないと言うように立ち上がる。 「急用ができた。ほんとごめん」 「助けてってなんだよ?また危ないんじゃねぇの?お前ほんといい加減にしろよ!俺もいく!」 「危なくないよ。小さい女の子に会いにいくだけ。でもどれくらいで戻れるか分からないし、その子人見知りだからごめんね」 「……っ月城に捨てられても知らねぇぞ!」 オレの手を掴む純ちゃんの手をやんわり離して、自嘲的な笑いがこぼれた。 「もう遅いよ」 とっくにもう、千には捨てられてる。 純ちゃんが動揺したように瞳を揺らした。 「ごめん。あとで連絡するから!」 前払いの店なのでそのまま固まった純ちゃんを振り払い早足で店を出た。

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