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選択

お店を出てすぐ駅に向かって走りながら経路を調べる。 少し多目に見積もって二時間と言ったけど、一時間半ほどでつきそうだった。 駅に着いてスマホを見ると純ちゃんから何件も着信が入っていた。 まさしく、純ちゃんの言う通りだと思った。     ヤケクソになってるつもりはなくて、あゆむちゃんと電話してたときから色々考えたけど、やっぱり危ないことは絶対しないし、あゆむちゃんに虐待のあとはなかった。 色々とちゃんと考察して行動してるつもりだ。  そのつもりだけど、やっぱり何より、泣いてオレの名前を呼ぶあの子の元に早く行ってあげたかった。 たった一回あっただけのオレを頼るなんてよっぽど周りに誰もいないんだろう。 そう思うとなんとも言えない気持ちになる。 純ちゃんを連れてこなかったのは、危ないかもしれないからじゃなくて、巻き込んで愛想尽かされるのが怖いわけでもなくて、万が一にも純ちゃんを連れ出して何かあったらと思うと怖くなったから。 心配する誰かを押しきっての行動は、絶対これが最後だ。 また鳴り始めた純ちゃんからの着信に、ようやく通話を繋げた。 「ルリ!!!お前今どこにいる!?」 聞こえてきた余裕のない声に、胸がズキッと痛んだ。 そんな声しないで純ちゃん。 「純ちゃん?本当に危ないことはないから落ち着いて。 迷子の女の子が寂しいって言うから会いに行くだけだよ」 「どこに!?」 「純也……」 「お前、イギリスに行って死にかけただろ?ルリがどこかいくの、怖いんだけど!!」 空港でぎゅーっと抱きついてきたオレと同じくらいの体はプルプル震えていて、あの華奢な体を思い出して、また胸に走った痛みにたえるようにため息をついた。 「一時間ごとにメッセージ送るし。 絶対ないけど、万が一にも危なさそうだったら身一番に逃げてくるから」 「ルリ!!俺が愛想つかされても仕方ないって言ったのは……」 「ごめん、もう電話切るね。また電話するから」 丁度着いてしまった電車に純ちゃんの言葉を遮って電話を切ってしまった。 純ちゃんも中々の心配性だ。 あゆむちゃんにはその心配してくれる誰かが、近くに誰もいないことが悲しくて仕方なかった。 あの日泣いてるあの子のそばを離れなきゃいけなかった心残りがずっとつっかえていた。 "大切な人選べてる?" 一定の音で揺れる電車の中、純ちゃんの言葉が頭で反芻する。 苦しそうな顔で死にたいくらいだと言ったカズマさんと、俺を叩いて辛そうな顔をした千。 大切なのは間違いなく千なのに。 ………そっか、オレは選ぶ強さを持ってないんだ。 "優しくしといて裏切りやがって" そう言ってカズマさんは手を挙げた。 千はオレに裏切ったとか、傷付いたとか言わない。 でも、たくさん傷付いたよね。 オレなんかよりずっと。 千の強さに甘えてたんだね。 今だって、心配だから行かないでと言う純ちゃんを置き去りにしてあゆむちゃんを選んだ。 オレの薄っぺらい優しさは、誰かの強さに甘えて成り立っている。 今オレが行ったって未成年のオレには根本的な解決をしてあげることなんてできない。 泣いてるあゆむちゃんを置き去りにしたあの日の繰り返しだ。 なんだか昔よりもずっと、どんどん自分が嫌いになっていく。

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