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選択

_________ 「お土産用に包装お願いします」 あゆが選んだ可愛いデコレーションのカラフルなカップケーキの詰め合わせを店員さんにルリが渡す。 どうしてあゆの家にいくのにお土産?とルリに聞くと、オレがお家であゆちゃんとお父さんと3人で食べたいからだよってイタズラっぽくルリが笑う。 さっきゴハン残してたのに、変なの。 紙袋を受け取ってお店を出ると、歩いてすぐのおうちまでルリと手を繋いで向かった。  お家は三階建ての2階にあって、階段を上がると肩にかけてた小さな鞄からお家の鍵を出して家に入った。 お母さんが居なくなってから散らかってしまったお部屋を見てもルリは顔をムッとしないで、お邪魔しますと笑ってくれる。 「お父さん、ただいま」 ルリの手を引いてお父さんの閉じ籠ってる部屋の戸をトントンって叩いたけど、返事はなくて寝てるみたい。 せっかくルリが来てくれたのに。 でも、お父さんは三時間くらいで起きるし寝起きだったら少しお話出来るからいいかも。 「ルリ、お父さん寝てるみたい。 すぐ起きると思うから待っててくれる?」 「うん、もちろん。 じゃあ、待ってる間、お家をピカピカにしてお父さんのことびっくりさせようか?」 びっくり?ピカピカ? キョトンとすると、ルリがにっこり笑って立ち上がる。 「あゆちゃん、ごみ袋ってどこにあるかな?」 ルリは腕を巻くって寒いのに窓を開け始めた。 「ごみ袋?これ?」 台所の戸棚から持ってくると、ありがとうって受け取ってコンビニの袋に入ったごみをがさがさ入れ始めた。 「あゆちゃんはこれお願い。 オレは天気いいから先にお洗濯しようかな」 「びっくりって、お父さん喜ぶ?」 「うん。絶対喜ぶよー」 よくわからないけど、お父さんが喜ぶならやる。 ルリがしてたようにごみを袋に入れていくと、ルリは散らばった服を纏め始めた。 「わっ」 その途中、ルリが床に落ちてたビニール袋を踏んでべちっとしりもちをつく。 「あはは!ルリこけたぁ」   思わず笑うと、ルリもほっぺたを少し赤くしてへにゃっと笑った。 「こけちゃったー」 それから二人できゃっきゃっと笑い合いながらお部屋のお掃除をすると、まるでお母さんがいたときのように、ううん、いたころより綺麗になった。 なんだか、心もスッキリした気がする。 「あゆちゃん、お掃除楽しいねぇ」 ルリがそういうから、疲れたけど楽しかった気がする。 ルリが最後にテーブルや棚を拭くのを手伝いながらうんうんって頷いてると、カタンと音がして顔をあげるといつのまにかおとうさんがびっくりした顔で立っていた。 「…………これは……」 びっくりしたまま綺麗になった部屋を見回るお父さんに気付いたルリが慌てて立ち上がった。 「すみません、勝手にお邪魔しております。ボク、あゆむちゃんの友達でアンジェリーと言います」 普段はのんびり喋るルリが早口でぺこっと頭を下げた。 ボーッとしていた父さんも少し困った顔しながら頭を下げる。 「あ………はじめまして、あゆむの父です…………。 あゆむが、お世話になって………おります。 せっかく来ていただいたのに、その、散らかっていてすみません」 「とんでもないです。あゆむちゃんと楽しい時間をすごせました」 まだ少しボーッとしたようにボソボソ話す父さんの言葉を、嫌な顔しないでルリはにこにこ聞いてくれる。 それから思い出したように、さっき買ったマフィンの詰め合わせが入った紙袋をお父さんに差し出した。 「あの、よかったらこれあゆむちゃんと二人で召し上がってください」 「………そんな………わざわざ、ていねいに……すみません………」 「いえいえ、つまらないものですが」 「あの、すみません……その……ゆっくりして行ってください」 ぺこっと会釈だけしてまたお父さんが自分の部屋に入ろうとしてしまう。 ルリともっと話してほしくて思わずお父さんの腕に抱き付いた。 「お父さん、お願い!今日はお酒飲まないで!ルリと話して!」 ルリもお父さんもビックリしたようにあゆを見下ろす。 お父さんは辛そうに顔を歪めて、あゆの頭を撫でた。 「…………ごめん。ダメなお父さんでごめんなあゆむ…………。 ………アンジェリーさん、すみません……」 やっぱり父さんは謝るだけで部屋に戻ろうとしてしまう。 お父さんだって苦しんでる。 でもね、お父さん、ルリは優しいから。 きっとお父さんの苦しいのも治る。 だからお父さん、逃げないで。 「あの、都合が悪くなければご飯だけでもご一緒させていただいていいですか?ボク、料理するので」 「え、あ………わかりました……。 娘の、わがままに……付き合って下さりありがとうございます」 お父さんは、人のことハイハイってよく聞いちゃう。 本当は困ってるのわかってるけど、今日はそれでもいいの。 「いえいえ!わがままを言ってるのはボクの方です。ありがとうございます。 あゆちゃん、お料理も楽しいから一緒にやろうねー」 「うん!」 お日さまみたいに笑う顔にあゆも最近で一番笑顔でいれる。 きっとお父さんだって。

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