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選択

千side 「あ!ルリ、女の子と合流したって! なんか飯食いに行くってよ」 リチェールと小まめに連絡を取る原野が逐一報告してくれる。 相変わらずどこにいるかは言わないみたいだけど、無事が確認できてホッとする。 俺も電話をとらないリチェールに、今どこにいる?とメッセージを送り、「ごめんね、明日には荷物纏めます」と返ってきたきりだ。 本当にあいつはもう別れた気でいるらしい。 イラっとしてもう一度電話をしようとしたけど、とらないだろうからやめた。 こういった誤解を解くのにメッセージと言うのはまどろっこしく返信もそこでやめる。 しばらくモールに車を走らせてると、着信音が鳴り響いた。 「ルリから電話だ!……もしもし!!」 興奮気味の原野が電話を取る姿をルームミラーでチラッと確認する。 「お前今どこにいんだよ!!」 「純也ー、声大きいよ。もー、ほんとルリくん大好きなんだから」 助手席から佐倉がクスクス笑いながら嗜める。 その横顔は若干腹黒いものだった。 「てか、ルリ!お前月城もみんな心配してるからとりあえず帰ってこいよ! ……ああ!?いいから帰ってこい!てかどこだし!……はぁ!?」 声がでかいだけの原野に話の内容が読めずルームミラーばかりに気がとられてしまう。 「純也、電話かわって」 佐倉も痺れを切らし原野からスマホをとった。 そしてすかさずスピーカーにする。 「やっほー、ルリくん。 ごめんねちょっと話聞いちゃったんだけど、昨日は大変だったみたいだね。体はもう平気?」 「雅人さん?うん、もう平気だよー。ごめんねー、心配かけちゃって」 聞こえてきたリチェールの柔らかい声にほっと息をつく。 震えてる様子はなく、虚勢を張ってる訳でもなさそうだ。 「ルリくんさ、純也がルリがいないーって泣くんだけど、大丈夫なの?なにか危ない感じ?」 「ううん。全然だよー。 今、前に迷子になってた女の子に会いに来てね、ご飯もちゃんと食べてなかったから、ご飯食べてたー」 「そっか、よかった。でも、そろそろ暗くなるんじゃない? ルリくん可愛いし心配だなぁ。迎えに行こうか?」 「大丈夫だよ、帰るのまだまだかかりそうだから」 はぁ!?と声を出しそうな原野を佐倉が睨んで止める。 まだまだかかるって。 もうほんのりオレンジ色に空は色付いていてもうじき暗くなるって言うのに。 「おっけー。じゃあ帰る時間わかったらちゃんと電話してね」 「うん。……心配してくれてありがとう。 雅人さん、ごめんひとつ甘えていいかな?」 「んー?なぁに?」 ぴくっと自分の眉間にシワが寄るのがわかる。 甘える?だれに? 「千とか純ちゃんに内緒にしてくれる?」 「うん、するするー。どうしたの?」 リチェールはまだスピーカーになってることも俺がいることも気付かず話を続ける。 「オレ三学期から学校での住所とか保護者とか千になるでしょ?」 「うん?なるねぇ。千くんこの前校長にも話通してたよー」 チラッと佐倉が俺の顔を見てはクスッも笑う。 それから口パクでこわいよと半笑いで言われた。 そりゃそうだろ。このバカは何を言おうとしてる? 佐倉なら言っても大丈夫だろう判断したんだろう。 「千、責任感強いからいくらオレのこともう好きじゃなくても、引っ越しもやめれないところまで来てるしらうちの叔父さんに言った手前どうにかしようとしてくれると思う。 でももう千の負担になりたくないから、どうしようか悩んでて。 保証人なしの物件、あるにはあったんだけど、学校での住所とか誤魔化しきくのかな?」 「あはは!それ担任の俺にきく? ちょっと物件探しとかもストップして。俺も調べてみるから」 「ごめんね」 「ううん。頼ってくれてありがとう。でもさぁ、ルリくん。本当に千くんはルリくんと別れるつもりなのかなぁ」 試すような佐倉の言葉に、リチェールが言葉に詰まる。 俺の負担になりたくない? それは俺に嫌われて、もう関係は終わりだと思ってからこその言葉だろう。 あの超ネガティブなやつに、嫌われたと思われても仕方ないことはした。 リチェールが本気で俺に捨てられたと思い込んで、自分から離れようとしている。 自立心の強いやつだからどんな状況でもなんとかしようとするんだろう。 電話の遠くから「ルリー!」と女の子のリチェールを呼ぶ声が聞こえた。 「ごはんもうできる?まだー?」 続けて声が近くなり今こいつどこでなにしてる?と想像した内容にイラっとしてしまう。 「わっ……ごめん雅人さん。またあとで電話するね!」 「はーい。ちゃんと遅くなる前に帰ってきてね」 「うん、本当に心配かけてごめんなさい。 ありがとう。純ちゃんにもよろしくね!」 早口にそう言うとリチェールとの電話は切れしまった。 佐倉がスマホを原野に返しながらニヤリと笑う。 「千くん、ルリくんと別れるのー?」 「別れるわけねぇだろ」 「あはは!まぁ、モールまでついたらあとはここにわざわざ迎えに来たから早く出てこいっていったらあの子の性格上、来るでしょ」   ああ、来そう。 今の電話の感じだとあゆむもかなり落ち着いてるようだし。 「そのあとは気晴らしに一泊の旅行でもいこうよ。 俺何気にこの辺来たことないし、飛び込みで泊まれそうなところさがそーっと。 仲直り、頑張ってね千くん」 横でのんきにホテルの検索を始める佐倉に、ため息をつく。 今回リチェールはちゃんと危ないところじゃないと判断してることはわかった。 それでも、今焦ってるのは本当にリチェールが離れてしまいそうだから。 早く連れ戻したい。 叩いた右手に頬の感触が甦る。 リチェールのあの時の顔が頭によぎってはまたひとつ大きなため息をついた。

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