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選択
リチェールside
家を出て薄暗くなってきた冬空の中、駅に向かいながら純ちゃんに電話をした。
「もしもし!?なにかあった!?大丈夫か!?」
まるで電話を待ってたようにほんのワンコールで取られ、クスリと笑ってしまう。
「もう純ちゃん。心配しすぎ。大丈夫だよー。今から帰るからね」
本当は二人に泊まっていってと言われたときそうしてしまおうと思ったけど、純ちゃんが待ってると思って踏みとどまった。
もうオレはオレを大切にしてくれてる人を踏みにじったりはしない。
納得もさせないで、振り払って離れるのは今回で最後にする。
それに、やっぱりね。
もう終わってしまったけど、千ときちんと終わらせたかった。
あんな最高な人と付き合えてオレは幸せ者だ。
だから、逃げないでちゃんとありがとうって終わらなきゃ。
でもやっぱり寂しい。
オレなんかであの二人の支えになるなら、本当にルームシェアさせてもらうのもありかなぁ。
「てかルリ、お前!!俺に内緒ってなんだよ!!!」
後ろから、わっばか!と雅人さんの焦る声が聞こえる。
あー、言っちゃったんだ。良いけどね。
でも純ちゃん心配しすぎるからなぁ。
だから安心してねって意味で言葉を続けた。
「ごめんごめん。心配させたくなかったの。でも解決したからねー。
住む場所見つけれたっぽい」
「はぁ!?」
「まぁとりあえずって感じかな。
その女の子の家なんだけどその家が安定するまでに新しい家探せれたらなーって感じ」
「え!?いや……月城は?」
「だから別れたんだってば」
ああ、別れたって言って泣きそう。
せめて、優しい千を困らせないよう目の前では泣かないようにしないと。
「もしもしルリくん?」
また電話が代わって、雅人さんの声が聞こえる。
「あ、雅人さん心配かけてゴメンね。もうすぐ駅のつくから」
「んー、その駅って○○駅?」
「え、なんでわかるの?」
言い当てられビックリして聞き返すと、クスクス笑われる。
「そこなら10分くらいでつくから待ってて。迎えに来ちゃったー」
だから、なんで場所わかったの。
純ちゃんと二人で来たのかな。
まぁもう来てくれてるなら甘えよう。
「わざわざ来てくれたの?ごめんね迷惑かけて。駅の向かうね」
「うん。じゃあまたあとでねー」
電話を切り、メッセージアプリを開くと千からはやっぱり返信が来ていなかった。
一人じゃなくてよかった。
色々考えることが増えて気が紛れたらと思う。
駅の入り口付近の壁に背中を預けてため息を一つこぼした。
「ルリ?」
純ちゃんでも雅人さんでもない声に名前を呼ばれて顔をあげる。
その人物を映すと、さあっと血の気が引いた。
「…………カズマさん………」
スーツを来たカズマさんがバツ悪そうな顔して立っていた。
手を押さえられ後ろから色んな道具に体を無理矢理弄ばれた恐怖が甦る。
「………なんで、ここに……」
「……営業の帰り。えっと……ルリは?」
どうして、普通に話しかけてくるの?
つい昨日あんなことがあったのに。
動揺しながらも、今更話すことは何もないと、その場を離れようと背中を向けた。
「ま、まって!」
「ひっ」
手を捕まれ情けない声が出てしまう。
振り返った瞬間、カズマさんの切羽詰まったような苦しそうな顔が映り、振り払おうとした手をの力が抜けてしまった。
「………謝りたいんだ………」
痛みに耐えるような声に胸がぎゅうっと締め付けられる。
だめだ。
自分の痛みばかり、敏感になるな。
カズマさんだって苦しんでる。
「……謝るも、なにも……」
もういいよ。どうせ千とは別れてしまったし、カズマさんのこと恨むつもりはないけど、仲良くなんてどうせもうできないんだから。
「ごめん、本当今さらだよね……。
自分で壊してはじめてルリの優しさに気付いた。
本当、ひどいことしてごめん………」
もういい。
もうオレのことなんて気にしなくていいから、それよりこれからあんなことしてしまうほど頑張りすぎないで、自分のことを大切にしてくれたらと思う。
「………カズマさん、そのことは、もう……」
"ルリが許したらそれは強姦じゃなくて浮気だよ"
純也のまっすぐな声が頭をよぎって、言葉が止まる。
ぱちんっとさほど痛くもなかったけど、叩かれた後、いい加減にしろと言った千の苦しそうな顔が浮かんで胸を締め付けた。
「………オレは、あなたを許すこと、できない………」
オレが許したら、これは浮気だ。
そんなことないんだよ、千。
今さらになってしまったけれど、オレが愛したのはあなただけだった。
今回オレが本当に傷付けたのは、傷ついたのはカズマさんじゃなくて……。
その瞬間、カズマさんがひどく傷付いた顔をして、オレまで苦しくなったけど、ぐっと唇を噛んだ。
「だから、オレから許してもらうとかそんなこと考えないで、二度とあんな悲しいことしないで」
そっと息をついて、カズマさんをまっすぐ見つめた。
「さよなら、カズマさん。……手、離してくれる?」
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