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選択
「………っルリ」
ギりっと痛いほど捕まれた手を強く握られ、目をつぶる。
早くこの場からいなくなってもらわないと、雅人さんや純ちゃんが来ちゃう。
「やっぱり、お前俺のことバカにしてるだろ……?」
そんなことなかった。
でもカズマさんがそう受け取ってしまったのならもうそれで仕方ないと思う。
カズマさんに本当はごめんねって言いたい。
でもそれって、オレ自身を楽にするためだけの言葉なんだと今更ながらに理解する。
「手、離して」
「あんなにアンアン喘いでたくせに偉そうにしてんじゃねぇよ!!!」
カズマさんがカッとしたように拳を振り上げ、咄嗟に蹴ってやろうとしたけど、殴って相手がスッキリするのなら、多少の罪滅ぼしになる気がして目をぎゅっと閉じた。
バシッ
「…………っ?」
音は響いたのに痛みはなく、そっと目を開けた。
「……あ……あ………」
目の前には顔を真っ青にしてるカズマさん。
その拳を綺麗な形の手がオレに当たる寸前で止めていた。
「………せっ」
ここにいるはずのない姿に思わず声をあげそうになる。
そのまま、ドスンと重たい音が響いてカズマさんの体が傾いた。
「っがは……っおぇ……!」
お腹を押さえて、息すらままならないように蹲る。
信じられない気持ちで目を見開いた。
千が人を殴ったの初めて見た。
「二度とこいつの前に姿表せるな」
ゾッとするほどの低い声に、ヒィっと小さく悲鳴をあげて尻餅をつく。
それから次の瞬間にはコケそうになりながら離れていった。
「なんで………」
ここにいるの?
フリーズしている後ろからバタバタと足音が聞こえてきオレの横を通りすぎる。
「あいつがルリを襲った奴だな!!!ぶっ飛ばしてくる!!!」
えっ!?
聞きなれた声に振り返ると純也がカズマさんを追いかけようとしていた。
それを雅人さんが首根っこを捕まえて止める。
「純也!!!」
「はなせ!!あいつだけはぶん殴る!!」
「いい加減にしねぇとまじで首輪つけて動けねぇようにするぞ!?」
「すみませんでした!!!」
あまりにもテンポのいい純也の降参に思わずコントかとぽけっと思ってしまう。
素直に謝る純也に対して雅人さんが鬼のような形相からいつもの穏やかな顔に表情を戻した。
「ルリくんやっほー。迎えに来たよー、3人で」
へらりと、笑う雅人さんにようやくなんで場所がわかったのかとか、どうして千がいるのかとか色々な謎が一瞬で解けてさぁっと背中に冷たいものが走った。
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