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選択

千とは、カズマさんとのことがあって、初めて感情のないエッチをしてそれっきりだったから、目が合わせられないくらい気まずい。 純ちゃんがあんまりにも心配するからここまでついてきてくれたんだろうけど、千はもうオレのこと好きじゃないんだから、助けられると申し訳ない気持ちで苦しくなる。 アンアン喘いでたくせに、とか絶対聞かれてたよね。………ほんと、最悪。 「あ、の……」 「ルリ、てめぇ、勝手にこんなとこまで来やがって!!」 その気まずい沈黙は純ちゃんによって一瞬で消された。 咄嗟にパッと千から体を離し純ちゃんに向き直った。 「純ちゃんごめんねー。 もう勝手な行動はこれっきりにするから」 「当たり前だろばか!!」 声の大きさにビクッとしてしまうと、純ちゃんがはーっと息を吐いた。 「……俺もひどいこと言ってごめん。少し焦ってた」 全然悪くないのに謝ってくれる、優しい純ちゃんにまた胸が痛む。 「どうして謝るの?ありがとう純ちゃん。もう絶対心配かけないようにするね」 ね?と純ちゃんの両手を包めば、ぎゅっと握り返される。 「危ない行動って言うけどさっきの男を一人で追いかけようとした純也も変わらないからね?反省しろよ?」 あん?とがらの悪い言葉が続きそうな低い声で、雅人さんが黒い笑顔のまま純也を見下ろした。 「………雅人、あれはあれだ。気のせいだ」 なにがどう気のせいなんだよ。 でもしどろもどろになってる純ちゃんが可愛くて思わすふっと笑ってしまった。 「ま、とにもかくにも! お互い子供たちのお仕置きもあるし? すぐそこのホテル予約しといたからいこっか」 「ええ!?」 驚くオレに、大人二人はさっさと車に乗ってしまう。 純ちゃんも俺は悪くねぇだろ!とぎゃんぎゃん言いつつ、ホテルのことはわかってたのかそのまま車に乗り込んだ。 待たせるわけにもいかないのでとりあえずオレも車に乗る。 後部座席に乗るとこそっと純ちゃんに耳打ちした。 「ホテルって?」 「ダブルを2部屋とったんだよ雅人が。 ルリが遅くなっても待てるように」 「そうなの?ごめんねー」 「いーじゃん?冬休みももう終わるし明日はふつーに遊ぼうぜ」 そんな気楽にいけるとは思えないけど、とりあえずうんって笑っておく。 ダブルってことは、雅人さんと純ちゃんが一部屋だからオレは千とだろう。 話し合うにはちょうどいいかもしれない。 家はちゃんと出ていくし、場所もすぐお世話になれそうなとこ見付けたから大丈夫だよって安心させてあげなきゃ。 ちゃんと捨てられるのはわかってる。 泣いてすがって、困らせたりしない。 こんなにオレのことを大切にしてくれた人のために、せめて未来の邪魔はしない。 車を走らせてほんの10分ほどでついたホテルのフロントで、予約した雅人さんが手際よくチェックインを済ませる。  今はまだ二人っきりになるのが怖くて、離れたくないと意思を込めて純ちゃんにピッタリくっついた。 「じゃ、またあとでねー千くん」 それなのにあっさり雅人さんに取られてしまう。 肩を抱かれてどんどん離れていく純ちゃんは、ギャンギャン騒ぎながらもなんだかんだ言って頬っぺた赤い。 「行くか」 「え、あ、うん」 突然話しかけられ、一瞬どもってしまったけれどすぐ頷く。 雅人さんから受け取ったカードキーを片手に指定された部屋へ向かう千の背中を少し距離をおいて追いかけた。 廊下ですれ違った、女性の3人グループが顔を赤くして千に見とれてる。 オレと別れて、今度は普通にこーゆー可愛らしい女の子と付き合うのかな。 そう思った瞬間ズキッと胸に走った痛みを振り払うように千との距離を詰める。 女性達が少し残念そうなことを言ってるのが後ろで聞こえた。 千の幸せを邪魔なんてしたくない。 新しい人がきっとすぐ見つかるだろう。 でも、今だけ。今だけだから。 そう自分に言い聞かせ、ぎゅっと服の裾を握った。 指定された部屋にはいると、ダブルのベットが目に入り気まずい気持ちになる。 ふーっと小さくため息をついてベットに腰を下ろした千から少し離れた二人がけ用の小さいソファにオレは腰を下ろした。   オレは寝るのこっちでいいかも。 「リチェール」 「…っはい」 ぼやっとしていたのを見抜いたように話しかけられ、声が上ずってしまう。 顔をあげると、スカイブルーの瞳と視線が交わってこれから始まるであろう別れ話に備えひとつ息をついた。

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