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選択
部屋にはいると、俺たちに気付いていないのか、中から話し声が聞こえる。
「………俺だって全く意識してないわけじゃねぇんだよ」
聞こえた原野の声にそのまま進もうとした俺の腕を静かに佐倉が引き留めた。
盗み聞きとか悪趣味だろ。
そう思いながらも佐倉に止める様子はなく仕方なく死角になる壁に背中を預けてため息を溢した。
「でも、雅人は小慣れた感出してくるし、なんかボケッとしてたらあれよあれよと俺の貞操が奪われそうで怖いんだよ!」
「えー?雅人さん優しそうだしその辺は徐々にいってくれるんじゃない?」
「いーや!あいつ俺がお前の年の時は毎日のようにヤってたのにってこの間バカにしやがった!性欲オバケめ」
本人の前で言ってんじゃねぇか、と性欲オバケを見ると無駄に爽やかな笑顔を返してくる。
どういう感情だよ。
「それは……まぁ雅人さんも男だし切羽詰まってたんじゃない?」
苦い笑いを溢すリチェールを原野がベットにぽすんと押し倒した。
子猫のじゃれあいみたいでかわいい。
「ルリ相手ならこれだけ近づいても何も感じないのに」
「うん?んー、純ちゃんの顔近くで見ても可愛いなぁってくらい」
「なめてんのか!
とにかく、普通の男とこういう状況になっても、俺はなんの感情もわかないんだよ。
雅人にされたら、動悸息切れ目眩と体が奴から危険を感じ取ってる」
お前は本当に化物か何かか。と横にいる佐倉を半笑いで見ると相変わらず爽やかに笑っていた。
「それさぁ純ちゃん。ドキドキしてるんでしょ?オレだって千にされたら毎回ドキドキするしー」
「……初めてちゅーした時って最後までした?」
「うん?んーん。初めてのちゅーは不意討ちだったから。でもその日のうちにしたかなぁ」
「あいつも性欲オバケだな!」
なんで恋人にキスしてこんな言われようなんだよ。
これは聞くに耐えない。
おっさん二人で何してんだって話だけど。
「そんな言い方しないでー。むしろ初めてエッチしたときはオレから誘ったし」
「ええ!?けつだぜ!?おま、怖くなかったの!?……けつだぜ!?」
「ほら、オレそもそも千が初めてじゃないから純ちゃんみたいな怖さはなかったよ。言ったじゃんビッチだったってー。あ、こんな言い方したら千に怒られるから内緒ね?」
もう聞いてるんだけど。
眉間にシワがピクッと寄る。
「……ビッチとか言うなよ。ムカつく」
「事実だよ。だから千が壊れ物を扱うように大切に触れてくれるたびに申し訳なくなると言うか、汚い部分を見せるようで、そう言う意味では怖かったかなぁ」
「じゃあ月城に納得するまでお仕置きしてもらえよ。ビッチとかいうな」
「だ、だめ!」
未だにヤる度に震えるやつのどこがビッチなんだよ。
するの、本当は苦手なくせに。
「てかさ、い、痛くないの?」
こういう話題に恥ずかしそうにしながらも今後に備えて怯えるように話す原野にリチェールも気まずそうにはにかむ。
そもそもリチェールも下ネタとか苦手だもんな。
てか、こんな話やっぱ聞くべきじゃないだろと部屋を出ようと佐倉に合図すると首を横に降られた。
俺だけでももう出てしまおうとドアに向かった。
「そりゃいたいよー。オレ慣れてはいるけど千の………その、ほら、アレ、おっきいから……慣らしてもらっても挿れるときは何回しても痛い」
けれど聞こえてきたリチェールの言葉に動きが止まる。
振り替えると佐倉がにやにやと悪趣味に笑って俺をみていた。
「ほらな!やっぱされる側は痛いんだよ!なんでそれでヤるの!?月城ががっついてくるんだろ!?俺が言ってやる!」
「わー、違う違う!我慢してるとなじゃなくてね!」
興奮気味に喚く原野をリチェールが宥める。
気がつけばまた壁に持たれていた。
「そもそもオレから誘うことの方が多いし、千はオレが怖がるからってよっぽどオレが悪いことしない限り千からしてくること滅多にないよ」
「痛いのになんで誘うんだよ!?Mか!?」
「Mじゃない!Mじゃないけど……千としてて、ちょっと痛いのも、気持ちいい、っていうか………ごめん、オレキモいわ。忘れて」
「いや、キモい、とかってのは、ねぇけど……」
恥ずかしそうにお互いぎこちなく会話にむず痒くなる。
やっぱ出よう。これは聞くに耐えない。
「でも、千とのエッチやっぱり少し怖いかも……」
そしてまたその言葉に引き留められてしまう。
「千ってモテるし、たくさん経験あるでしょ?
女の人とたくさん経験したあとでオレとのエッチ本当に満足してるのかなぁって。
本当は女の人としたいんじゃ…………どうしよう。考え出したらめっちゃ怖い。浮気とかされたらオレ立ち直れないかも!」
相談されていたはずのリチェールが逆にすがるように原野にしがみつく。
浮気とかするわけねぇだろ。
本当にリチェールの自信のなさはどうにかしてほしい。
こそっと佐倉が「ルリくん可愛いね」とクスクス笑う。
「そこは大丈夫だろ。やつらは突っ込む側なんだから同じなんだし。
俺ら側だよ問題は!けつだぜ!?」
三回目のけつだぜ!?で、吹きそうになるのをグッとこらえる。
「で、でも、大丈夫だよ。やっぱり好きな人とのエッチって全然違うし!」
「無理無理無理!いくら好きでも無理!雅人の野郎強引だし!絶対無理!キスくらいならいいかもしれないけど、その先を許してると思われたら嫌だから無理!」
「えー。オレなら千に触ってもらうのすきだけどなー。生まれ変わるなら千の家のドアノブになりたいもん」
「はぁ?」
「毎日触ってもらえるじゃん」
「キモいわ!!!!」
ブファっと吹き出しそうになる佐倉の腹を殴って止める。
声も出さず堪える佐倉に気付くこともなく会話は進んでいく。
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