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選択
「まぁ、オレは純ちゃんが怖いの我慢してまですることないって思うよー」
「我慢……っていうか……」
言いづらそうに口ごもり、決意を固めて顔をあげると原野は再びリチェールをベットに押し戻した。
相手は原野だし、大丈夫だとは思うけど、あまりリチェールを乱暴に扱わないでほしい。
いきなり触れるのとか、押し倒されたりするのはすぐ笑顔に隠すけど、色々思い出すのか本当は怖がってるから。
「ルリ、俺たちも男だ。腹割って話そう」
「? お腹割るの?あ。千みたいに?」
俺の腹筋の話してるんじゃねぇよバカ。
今度リチェールと本屋にでもいこう。
日本語、もう少し覚えるべきかもしれない。
「隠し事なしでいこうってこと。
俺さ、雅人にガンガンこられるの怖いから慣らしとこうと思って。
どれくらいだと普段ヤってるくらいになるのか、ルリの後ろ触ってみていい?」
「はぁ!?やだ!」
イエスマンのリチェールが即答で断った。
まぁ、そりゃ当たり前だろ。
原野の教育どうなってんだと佐倉を睨むと、手を合わせてごめんのポーズで困ったように笑う。
「いっしょーのおねがい!マジで怖いんだって!」
「うー………」
そういう言葉には相変わらず弱いらしく、困ったように枕に顔を埋める。
断らなかったら、ほんと足腰立たなくなるまで犯すけど。
「ていうか、こういうの浮気なんじゃないの?」
「俺とルリで浮気になるわけないだろ」
何だよその理論。
本当にやましい気持ちが1ミリもないからこその言葉なんだろう。
たしかに原野とリチェールなら口以外のキスくらい何とも思わない気もするけど。
体に触れるのは別だ。
「じゃあ、逆にオレが慣らしてあげようかー?
千が普段してくれるの痛くないし、オレできるかもー」
「嫌に決まってんだろ!何で俺がけつの穴触られなきゃいけないんだよ!いーからちょっと触らせてみろ!」
「やーだぁー!オレがしてあげたらすむ話じゃんー!オレ千にしか触られたくないしー!」
「俺だって雅人以外のやつに触られたらあの性欲オバケが怪物になるんだから仕方ねーだろ!」
「だれが性欲オバケだコラ」
もみくちゃと、子猫のじゃれあいのような取っ組みあいも少し見るに耐えないところにいき、ついに痺れを切らした佐倉が胡散臭い笑顔と共に原野の首根っこを掴んで引き剥がした。
「ま、雅人!?」
本当に化け物でも見たかのように顔を青ざめさせて見上げる。
「慣らすのは俺がやる。
自分でやろうとすんな。ましてや他のやつに触らせたら一番痛ぇようにぶちこむからな」
「…………」
「素直に返事したら優しくしてやる」
「……… 」
顔は常に笑顔なのに、その裏の黒い感情を読み取り原野が素直にコクコクと何度もうなずく。
そーゆーことするからびびって逃げられるんだろうに。
仕方なく俺も姿を表せると、リチェールが分かりやすくさぁっと表情を青くする。
「いつからいたの!?」
「ドアノブあたり」
本当はもう少し前からいたけど、反応がみたくてからかってみる。
リチェールは顔を真っ赤にさせて俺の服にしがみついた。
「そんなこと聞いてちゃダメだよばかー!」
「自分の部屋に帰ってきたら勝手に話してたんだろ。
毎日触ってほしいんだって?」
「へ、変な意味じゃなくて……っ」
俺の行動ひとつで赤くも青くもなる顔色を見てかわいいなと思う。
「じゃー、千くん、ルリくん。うちのチビが迷惑かけてごめんね。
明日はこの辺で遊ぼうねー。おやすみー」
さっきの黒さは一瞬で消し去り、人当たりのいい笑顔でさっさと原野の肩を抱いて佐倉が立ち上がる。
聞かれたことが恥ずかしいのか原野は暴れることなく顔を赤くして観念したようにされるがまま連れ出された。
「純ちゃん大丈夫かなぁ……」
ドアまで見送ったリチェールが戻ってきながら心配そうに頬に手を添える。
「大丈夫だろ。佐倉は一回りも年上なんだし」
「純ちゃんも怖いってだけで本当に嫌って訳じゃないと思うんだよねー」
「リチェールも未だに怖いんだもんな」
ふっと笑うとリチェールが焦ってそんなことないと言う。
聞いてたっての。
「リチェール、おいで」
ベットに腰かけて手を差し出すとリチェールが戸惑いながらも近付いて俺の手に小さな手を重ねる。
「わぁっ」
その手を引いて、後ろに寝転ぶと上に華奢な体も倒れてきた。
「せ、千………っ」
恥ずかしさから逃げるようにリチェールが体を離そうとするけど、ぎゅっと腕の中におさめた。
「触ってほしいんだろ?」
「だ、だから、変な意味じゃなくて……っんぅ」
後頭部を押さえて口づけると、深くなるにつれ段々体から抜けて俺に体を委ねてくる。
「やめるか?」
唇を離して意地悪く笑うと、リチェールがとろんとした瞳で苦しそうに俺の服をぎゅっと握る。
「やめないで……っ触って……」
キスだけで感じるやつ、こいつくらいだと思う。
どれだけ俺のこと好きなんだよ、と愛しさがましてふっと思わず小さく笑いが溢れた。
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