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冬休み
千side
中々予約が取れない有名な心療内科の医師に知り合いが居たから、そいつに連絡して特別に今日予約の予約を入れてもらい、何かあったらまた連絡することで落ち着いた。
泣き疲れて眠ってしまったあゆむを抱いて頭を下げる父親に俺たちも軽く会釈をして家をあとにした。
本当はこういう家庭事情に首を突っ込むのは完全なエゴイズムだからするべきじゃない。
わかってて放っておけないんだろう、リチェールは。
俺なら絶対関わらないであろう問題だけど、リチェールが一人で突っ走るよりずっといいと思う。
「千、ごめん。寒いから引っ付いていい?」
駐車場までの道を歩きながらリチェールが不安そうに服のはしを握って見上げる。
イギリス育ちで俺より寒さに強いリチェールが寒いなんて嘘だろう。
引っ付いたいなら、そういったらいいのに。
「おいで」
手を差し出すと、リチェールがほっとしたように微笑み腕にぎゅーっと抱き付いてくる。
なんでこんなに俺のこと大好きだと分かりやすいくらいなのに、少しつつかれたらすぐ離れようとするんだろう。
「パパさん、頑張ってほしいね」
「俺はあゆむのためにも離れるべきだって思うけどな」
「うん。オレのわがままに付き合ってくれてありがとう、千」
「体で返せよ」
「もうっ」
軽く冗談を言って肩を抱き寄せると、顔を真っ赤にしてぱしっと肩を叩かれる。
人のためとはいえ助けてと言えるようになったり、自分だけで突っ走らないで相談できるようになったのは大きな一歩だ。
「千」
ぽつりと名前を呼ばれ顔を見ると、少しつつけば泣きそうな顔をしていた。
そういえば、泣いてるあゆむを警備員に任せて帰ったときもリチェールは車で泣いてしまった。
「だっこしてやろうか?」
「うん。ホテル戻ったらして」
冗談のつもりでさっきみたいに恥ずかしがってバカとか言ってくるだろうと思ったのに、思いの外今回は色々と思うところがあったのだろう。
ちょうど駐車場についたから、車で少し抱き締めてやる。
「パパさん、辛いね。
オレだってきっともし千を失って、お酒で気が紛れるなら絶対お酒やめられない。
それでも、本当はあゆむちゃんといたいのにあゆむちゃんを傷付けないために手放そうとしてたとかさ」
「お前はもう少し客観的に見れるようになったら楽に生きられるのにな」
宥めるように背中を撫でるとぐりぐりと顔を胸に埋めてくる。
匂い嗅いでるって、もうわかってるからなこの変態。
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