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冬休み

しばらくリチェールが引っ付いて動かないから車を運転できずにいると、どちらかのスマホがバイブした。 「あ、オレだ」 リチェールがポケットからスマホを取りだしこてんと俺に頭を預けたまま画面を見る。 「純ちゃんからだ。もしもーし」 時計を見ると9時になっていて、あいつらも起きて俺らがいないことに気づいたんだろう。 「ごめんねー。千と朝のお散歩に来てたー。すぐ戻るねー。……うん?うんうん。忘れてないよー。今日は冬休み最後のお出かけになりそうだし思いっきり遊ぼうねー」 リチェールが電話をしながらちゃんと助手席に座り直したから、車のエンジンをかけた。 ホテルまでは15分ほどでつくだろう。 電話を切り終わってリチェールが不安そうに俺を見上げる。 「オレ達は明明後日まで冬休みだけど、教師は違うでしょ?大丈夫ー?」 「自由出勤だからな。俺は大体仕事終わらしてるし、佐倉が言い出したんだからあいつも大丈夫だろ」 そう伝えると、良かったとリチェールが胸を撫で下ろす。 「純ちゃんがね、この辺に小さなテーマパークがあるから行きたいんだってー」 「いいんじゃねぇの。お前も冬休み色々あったし疲れただろ。最後くらい遊んどけ」 「ありがとう。 でも、千、疲れたらちゃんと言ってね?帰ったらマッサージしてあげるからゆっくりしようねー」 俺が疲れてたら虚弱なリチェールなんて倒れてるだろ。 こいつもゆっくりさせてやらなきゃな。 ああ、それと。やっぱり酒を提供する夜のバイトはやめてほしい。 冬休みが開けたらいよいよ、本格的にリチェールと家族としての二人暮らしが始まる。 話し合うことは色々あるから、今はリチェールがとにかく息抜きに楽しめたらといいと思う。 テーマパークとか人混みが多そうな所は頑なに避けてた俺が、甘くなったなと隣の金髪を運転の片手間に撫でた。 ホテルにつくと、相変わらずタックルしてくる原野に、倒れそうになったリチェールをさりげなく支える。 「お前だまっていなくなるなっつってんだろ!!!!」 本当に怖かったと言うように半泣きでいう原野に、リチェールは可愛いと顔を緩めて笑う。 「ごめんねー純ちゃん。 今日は純ちゃんの食べたいもの食べて、やりたいことしようねー」 「分かりやすく機嫌とってんじゃねーぞ!」 「んー、ごめんねぇ」 「すりよるな!」 頬をすりすりとすりよせるリチェールを、少し顔を赤くした原野が振り払って俺を見る。 「月城、今のはルリがアレだ。俺は悪くない」 「俺はお前んとこの性欲お化けと違ってお前ら二人には妬かねーよ」 少し焦ってる姿は可愛らしく、後ろで佐倉がん?と少し笑顔を黒くして首をかしげた。 「純ちゃん、テーマパーク行きたいんだってー。早くいこう。オレも楽しみになってきちゃったー」 空気を読んでかリチェールが原野の腕に抱きついて車の後部座席に走る。 原野も引っ張んなとか言いながらも、瞳はキラキラと輝かせて楽しみということを雰囲気から滲み出していた。 「千くん、仕事休み明けまでに終わらせそー?」 「終わってる」 「まじかぁ。千くんの方が色々仕事引き受けてるのにすげー。俺ちょいギりだわ」 佐倉が今夜は寝れねーわと軽く笑って二人のあとを追いかけた。 こいつも大概甘いよな、と笑をこぼして俺もその背中に続いた。 そしてついたテーマパークは、それなりに人賑わいしていた。 「ルリ!一番はえージェットコースター行こう!」 「おっけー」 どんどん先に行く二人を佐倉がこらこらと笑顔でたしなめながらついていき、俺はベンチで待つことにした。 さすがにジェットコースターとかでわーきゃーするほどは若くねぇよ。 リチェールが行きたいというなら連れていってやるけど、今回は佐倉もいるしな。 楽しそうに笑うリチェールの姿を遠目で穏やかな気持ちで見守った。

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