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冬休み
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一人で待っていると女グループによく話しかけられた。
連れがいるんでと断れば大体離れていくが、中には粘り強いのもいる。
「も、吐く……」
口元を押さえて戻ってきた原野が女性グループと俺を裂くように、どさっと俺のとなりのベンチに倒れ込む。
自分から乗りたいと言った割りには乗り物に弱かったらしい。
「雅人ぉ、水ぅー………」
「はいはい。もー純也、はしゃぎすぎ」
呆れたように笑ながら佐倉が水を手渡すとちびちびと原野が口をつける。
リチェールは乗り物は平気だったらしくけろっとしていた。
「ごめんね、千さん楽しんでるみたいだったのに」
去っていく女達を目で追いながら、リチェールは口元に笑みを浮かべて俺の横があいてるのに少し空間をあけて立っていた。
断ってたっつの。
「よし!復活した!ルリ、いこ!」
水を飲んで即効復活した子供の無尽蔵体力の原野が少し疲れの見えるリチェールの手を引いて次のアトラクションを目で探す。
「本当は少し日が落ちてからがよかったけど、ちょうど空いてるしあそこ入るか」
原野が指差したのはすぐ前にあるお化け屋敷だった。
中が簡単な迷路になってるらしく、中にいる時間が長いことから人があまり並んでいない。
「うん、いいねー。明るいうちに行こう」
若干笑顔をひきつらせつつも、リチェールが素直に頷く。
そういえば、佐久本がリチェールはホラーが苦手だとおちょくっていた気がする。
楽しそうに言う原野にイエスマンのリチェールは断れないのだろう。
「でも、ほらせっかくだから雅人さんと行ってきていいよ?」
「うん?純也はルリくんと行きたいんだろ?いいよ。ここからなら見える範囲だし二人で行っておいで」
嫉妬混じりの言葉に気付くことなく原野が嬉しそうにわかった!と張り切った声を出してリチェールの手を引いていった。
まぁ、見える範囲内だしな。俺の気持ちをいつまでも信用しないでバカなやきもちを妬いたことを少しは反省してこいと、その背中を見送った。
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