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冬休み

「わあああー!!!!」 「ルリ!!!暴れんなって!」 「ははっ。男の子なんだからしっかりしろよー」 結局その三人とリタイアに行くことはなく、一緒に純ちゃんを探しながらゴールを目指すことになった。 普通に怖いし、リタイアしたいんだけど。 でもお化けを見るたびに暴れて逃げようとするオレをたしなめて、一人はつい殴ってしまったのに気さくに笑ってくれてる。 大学二年で、今は二十歳らしい。 「お、お兄さん、やっぱりリタイアしたい………お願い。リタイアさせてぇ……」 「だーめ。友達が中にまだ一人でいるんだろ?男の子なら見捨てんな」 「出たよ、お前の男節」 「ははっ。うぜーよな」 見捨てるもなにも、あいつは一人でゴールしようとしてたし、こーゆーの楽しんでるから! 「ルリ、お前友達と何時くらいに中に入った?どれくらいあそこでうずくまってたの?」 「え?……んと、11時15分くらい」 「ああ、じゃあ本当にもうゴールしてるかもね。ここ、長くても一時間ではゴールできるらしいし」 そう言って、オレにGショックを光らせながら時間を見せてくれた。 いつのまにかもう12時半を過ぎていたんだ。 どうしよう。と焦り出した時、目の前から血だらけの白衣を着たゾンビが飛び出し、またオレの断末魔が響いた。 「いやぁあーーーーっ!!!!」 逃げようと暴れそうになるオレを一人が抱き締めるように押さえつけてくれる。 「ルーリ!男の子だろ!しっかりしろ!」 「やだ、やだぁ!もう出るぅ!」 「わかった!わかったから!リタイアに連れてってやるから暴れんな!」 「お前ん家、兄弟多いもんな。子守りのプロじゃん」 「おいルリ、押さえるの変われよ。俺もやりたい」 「「お前は下心あるからだめ」」 二人のお兄さんの声が揃い、まるでコントのようだと少し安心して顔をあげるとまだゾンビはそこにいたままでまた悲鳴をあげてお兄さんに「見るなって!」と腕の中に納められた。 もうこのままオレはなにも見ないで目をつぶってる間にリタイアに連れてってくれないかな……とか、都合のいいことを考えてしまう。 「リチェール」 低い声に名前を呼ばれてびくっとその声に顔をあげると、千が女の人を二人もつれて立っていた。 「あり?お連れさん?見つかってよかったじゃん?」 一人のお兄さんがにこっと笑ってくれるけど、オレは笑顔を返せずにいた。 あんなに頑なにベンチから動かなかったこの人は、何してんの。 つれてる女の子はすごく可愛くて、モヤモヤが増す。 思わずぎゅうっとお兄さんの服にしがみつけば、千の笑顔がぴくっとひきつった。 「この子、友達とはぐれて隅っこでうずくまってたんすよ。今リタイアのところまで連れていこうとしてたんすけど、お知り合いですか?」 別のお兄さんがけろっと千の不機嫌さに気付かず近寄った。 「う"~………あ"~……」 その瞬間現れたお化けにオレと女の子達の悲鳴が重なった。 「きゃあああああ!!!!」 「うぁああー!!!!!」 「ルリ!!お化け役に攻撃しちゃダメだって!」 暴れそうになったオレをまた一番面倒見のいいお兄さんがぎゅうって抱き締めて止める。 その瞬間、やべっと頭から血の気が引き、千を見ると女の子二人に抱き付かれながらにこっとオレを見て黒い笑みを浮かべた。 「君たち悪いんだけど、この女の子二人のうち、一人が足捻ったらしくて動けないらしいんだよ。そいつ探すついでにここまで支えてたんだけど、見付かったし変わってもらっていいか?」 「え!?」 あからさまにショックを受けた顔をする女の子を千がにこやかに見下ろす。 「……痛めたって言う足、しっかり使って今抱き付いてきたけど大丈夫?痛くねぇの?」 「え?あ!…いたぁー!!」 「足逆だろ」 呆れたように言う千に女の子が顔を青ざめさせた。 話は見えたけど、それでもやっぱり面白くない。 それに千が不機嫌で怖い。 お兄さんの後ろに隠れると、千がふっと冷たい笑みを浮かべた。 「今素直に来たら、許してやる。 来ないなら俺から行くけど、どうなるかわかってるな?」 おいで、と手招くように片手を差し出す千に、う。と息を飲む。 なんで不機嫌なの。怒りたいのはオレなんだけど。 でも、オレが千に逆らえるはずもなく、そろそろと千に近付く。 あと少しで千に触れそうな一歩手前。 「ぐぉおおお!」 突然現れたお化けに、ひっと息を飲んだ瞬間、ふわっと体が浮いて千に担ぎ上げられていた。 「うちのが迷惑かけて悪かったな」 おばけなんて見えてないように、静かにお兄さんたちに笑顔を見せて、颯爽とその場を離れる千にオレは黙って抱かれていた。

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