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冬休み

────── 「いやぁー、俺もまだまだ若ぇわー」 空中ブランコや、ジェットコースターに立て続けに乗って、雅人がけろっと笑う。 高いところとか早い乗り物ってスカッとして気持ちいい。 「純也、次どこがいい?」 優しく笑って傾げる顔を見て、本当に綺麗な顔だなって思う。 さぞモテるのにほんとなんで俺? 「………雅人は行きたいところねーの?」 「純也が行きたいところが俺の行きたいところだよ」 「寒い台詞」 「ははっ。本当にな」 ああ、うん。 やっぱり俺、コイツが好き。どうしようもなく。 でも、だから、素直になれない。 一応は、今、付き合ってる……んだよな。うん。 それなのに、なんだかルリや月城のようにはいかない。 「なら、今度はお前の施設に行ってみたい」 「うん?俺の施設?」 「お前は定期的に顔だしてるんだろ。俺も連れてけよ」 「んー、全然いいけど。亜夢いるよ?」 亜夢さんに叩かれたことを思いだし少しムッとする。 俺がいたらなにか不都合かよ。 「俺も純也のことみんなに紹介はしたいけど、亜夢と純也が会うのはなぁ」 「んだよ。この間空気悪くしたのまだ引きずってんのかよ」 「え?空気悪くしたのは亜夢でしょ。純也は気を遣って家を出たのはわかるけど」 言葉を止めて雅人の指がさらっと伸びて目にかかる俺の前髪を指でどかした。 「やっぱまた純ちゃんが家から飛び出したら亜夢のこと許せなくなっちゃいそうだからまだだめ。 純也が絶対俺からはなれないって証明できたら連れてくね」 「はぁ?きめぇ」 悪態をつきながらも優しい笑顔に、顔が熱くなるのを感じて目を背けた。 こんなに口悪い俺を、雅人はクスクス笑うだけ。 「その時は純也、苗字を佐倉にしちゃおっか」 「やだ。俺、原野って苗字気に入ってるし」 「えー、じゃあ俺が原野になってもいいよ」 「苗字なんてどうでもいいだろ」 「苗字でさえ純也は俺のだってアピールしたいの」 またふわっと笑う雅人に、胸がぎゅーっと締め付けられる。 すぐ妬いて束縛もすごいけど、俺のことを大切に大切にしてくれる感じがすごく暖かかった。     「そろそろ千くん達と合流しようか? 帰りも時間かかるし。最後になに乗りたいか決めといて」 ぽんぽんと何気なく頭を撫でられ、1秒で振り払う。 本当は撫でられるのだって嫌いじゃない。 でも振り払うのやめたら、受け入れたみたいでなんか恥ずかしいじゃん。 電話を終わらせた雅人がにこっと見下ろした。 「なに乗りたいか決めた?30分後に入り口付近で待ち合わせになったよ」 「じゃあ、これ」 赤い顔を誤魔化すのに必死で、なにも考えてなかった。 そんなこと言えるはずもなく、適当に目の前にあった大きな乗り物を指差した。 「観覧車?いいね。定番」 観覧車なんてただゆっくり回ってるだけの個室に並ぶ人は少なくスムーズに中に案内された。 本当は絶叫系が好きな俺からしたら観覧車なんて全然好きじゃないのに、いざ乗るとわくわくしてしまう。 「男二人で乗って変に思われなかったかな?」 「大丈夫。男二人に見えないから。 それに俺は周りにどう見られようとどうでもいいしね」 思ったよりもずっとゆっくり進む観覧車に景色はほとんど変わらずそれでも夕焼けの景色は綺麗だと息をついた。 「純也、宿題終わった?」 「大体。ルリが見てくれたし」 「えー、雅人も見てあげるのに」 「キモいわ」 28の男が自分で雅人とか言って、思わずくくっと笑ってると、雅人も笑う。 最近はこうして笑い合うことも増えた……気がする。 「純也、もう冬休み終わるけど、やり残したこととか、やってみたかったこととかもうない?」 「んー」 「純也のお願いはなんでも叶えてあげる。なんでも俺には言ってね」 「あ、じゃあ俺もバイトしたい」 「ダメ。他には?」 こ、このやろう……! にこやかに即答するエセ紳士を睨む。 なんでも叶えるっつっただろ。 「バイトしたい」 「ダメ。二回目」 「バイトしたい」 「しつこいぞ」 ダメと言われたらムキになってしまい何度も言ってみると、ぴくっと雅人の笑顔が若干不機嫌さを滲ませた。 ルリだってバイトしてるのに。 雅人だって校則違反だろうとその事黙認してるはずなのに。 「純也が今頑張るべきは勉強でしょ? 進学ルリくんのおかげでなんとかできそうだけど、卒業までは勉強に励みなさい」 「勉強が将来なんの役に立つんだよ。 俺、大学に行かねーし」 「進学しないにしてもだよ。 勉強が役に立たないってバカなこと言ってるうちは勉強しな。学年一位になってそれでも役に立たないって思ったならやめたらいいじゃん。 だから今はバイトはダメ。俺も校則を守る方じゃなかったからそこはあんまりキツく言うつもりはないけど、純也の保護者としては許せないかな」 保護者? 付き合ってるんじゃねーのかよ。 なんだか無性にイラっとしてしまう。

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