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冬休み
「お前を保護者なんて思ったことねぇよ」
低く吐き捨ててそのまま顔を背けた。
雅人は困ったように笑いながら分かりやすく機嫌をとってくる。
甘いの食べようか、とか。
晩ごはんはなんでも好きなの食べさせてあげるとか。
子供っぽいことばかり。
ちなみに甘いのは食べるし、晩ごはんもエビフライがいいとリクエストしたけど、それで機嫌が直るほど俺もガキじゃない。
俺が大人になれば、雅人は子供扱いしないのだろうか。
そういえば、今回の迷子の女の子の件があったとき、雅人がルリのことを同学年より大分大人だと誉めていたのを思い出す。
たしかにルリは大人だ。
大抵のことは笑ってなんでも許してくれるし。
自分のことを後回しにして人のことをするし。バイトしてるし。一人暮らししてたし。
気の使い方とか。色々。
月城とルリの付き合い方は、もちろん月城の心配はつきないだろうけど、対等に見える。
だって、月城ってなんだかんだ言ってルリに甘いし、ルリのお願いなら大体は聞くだろう。
雅人みたいに頑なにダメといって聞く耳ももたないわけじゃない。
俺がルリのように大人になれば対等になれるのだろうか。
「純ちゃん!ごめんねー、お化け屋敷で突き飛ばしちゃってー」
合流すると、ぎゅーっと引っ付いてくるルリをじっと見つめる。
目をひく肌の白さや、太陽に反射する綺麗な髪に、大きなエメラルドの瞳。
その綺麗な顔はいつもニコニコと笑顔を張り付けていて可愛さに磨きがかかってる。
やっぱ笑うのって大事だよな。
「なぁに?オレの顔何かついてる?」
「いや……可愛いなって」
「えー?なんだよー。純ちゃんの方がかわいいよ」
恥ずかしげもなく俺のほっぺたに自分のほっぺたを擦り寄せて、かわいいかわいいと連呼する。
こうやって素直に可愛いとか好きとか伝えてくることも、可愛さの一つだと思う。
車に向かっていつものようにルリと後ろに座る。
暖かい車内でそれぞれどこを回ったかと言う話で盛り上がった。
絶叫系ばかり行った俺らに対し、ルリ達はミラーハウスとか、ミニ動物園とか大人しい所に行っていたらしい。なんだか大人だ。
そもそも、ルリはイギリス育ちだし、英国紳士なんて言葉があるくらいだし、大人っぽく見えるのは仕方ない。
ああ、なんか、考えてたら疲れてきた。
大人になるってなに。
__________
「…………ん」
「あ、純ちゃん起きたー?」
ルリの声がしてハッと顔をあげると、窓の外は真っ暗になっていた。
ルリの膝枕でいつの間にか寝てしまったらしく、雅人の上着がかけられていた。
「純ちゃん今回はオレのために遠くまで駆け付けてくれて疲れたもんねぇ。
もう少し寝てていいよー?」
穏やかに微笑むルリに優しく髪を撫でられ、まただんだん瞼が重くなってくる。
車内が暖かく、優しく揺れるから余計に。
「遊んで食べて寝るって純也ほんとかわいいな」
けれど笑いを含んだ雅人の声に、一瞬で目を開けた。
またガキ扱いかよ!
がばっと起き上がると、ルリが「わっ」と小さく悲鳴をあげる。
「純ちゃん起きるのー?」
「起きる」
「そっか。さっきコンビニに寄ってね、純ちゃんの分ココア買っといたよー。
少し温くなっちゃったけど飲む?」
頷くと、わざわざキャップを開けて渡してくる。
俺が起きた瞬間、甲斐甲斐しく世話をやくルリにこれが大人かと目をみはる。
そういえば、月城の家に泊まったとき、ルリが洗濯も料理をしてた。
俺は洗濯は手伝うけど一回も料理なんて手伝ったことない。
俺のご飯つくってわがまま聞いて、たしかに雅人は恋人と言うよりは保護者と言う感じだ。
つい最近まで付き合うと言うことにあんなにも抵抗していたのに、どうしていまは相手に恋人だと意識してほしいと思うのか自分でも自分のことがよくわからない。
かといって、じゃあヤれんのかって言われたらノーだ。
俺は男だ。突っ込まれるように体は作られていない。
ましてやルリのドM野郎と違って、痛いのが気持ちいいなんて絶対思うはずもない。
本当にただ、雅人と特別で対等な関係でいたいと思うだけ。
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