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大人と恋人
暖かい保健室にいこうかとも思ったけど、ルリと二人でゆっくり話したくて屋上に向かった。
新設校だから、屋上と言ってもベンチも芝生もあとすみにバスケットのゴールもあって広い。
二人でベンチに向かおうとすると、奥から話し声が聞こえた。
「じゃあ、千くんが公表するようにルリくんに言ったんだ?」
その声は聞き間違えるはずもない雅人。
覗くと雅人と月城がタバコを片手に話していた。
どうしたの?と覗きこんできたルリにしーっと指を当てる。
「この学校、妙に男色家で過激なやつが多いからな。
リチェールもすでに何回か危ない目にあってるし、俺のだってわかったらちょっかいだす奴もいないだろ」
「ああ、たしかに一人暮らしで両親海外ですっていうのもも一つの要因だったのかもねぇ。千くん独占欲強いなぁ」
「お前ほどじゃねぇよ」
「まぁね」
クスクス笑い合う二人を見て、こいつらも仲いいんだなってルリと顔を見合わせた。
ルリの顔は少し赤くて、たぶん月城の言葉が嬉しかったんだと思う。
せっかくだし、声をかけてやるかと立ち上がろうとした瞬間、ルリにそっと制させた。
「オレたち生徒と授業中屋上にいたってバレたら二人の立場悪くなっちゃうから、移動しよっか?」
お、大人だ!!
なにも考えてなかった。
相手の立場を常に気遣う姿に、これだよこれ。と思う。
これができるようになったら、俺も一々保護者という単語にいらっとしたり子供扱いを不満に思ったりすることがなくなるのだろう。
言われた通り、ルリに手を引かれて立ち上がろうとした瞬間、足がもつれてしまった。
「あっ!」
「え?ぅわっ」
どさっと倒れこみ、ふわりと甘い柑橘の香りがぶつかる。
顔をあげるとルリを押し倒す形で倒れてしまっていた。
「ったぁ……。あはは。純ちゃんどんくさーい」
「わ、悪い!」
しりもちをついたことが恥ずかしいのか少し頬を赤くして笑うルリは妖艶だ。
やっぱり確実に、月城と付き合って色気が増したと思う。
こけただけなのに、ルリの表情になんだかいけないことをしてる気分になって顔が赤くなる。
「なにしてんだチビ共」
「授業サボって盗み聞き?よくないなぁー」
ふたつの声にハッとして顔をあげると、呆れたような月城と、黒い笑顔の雅人が俺たちを見下ろしていた。
別にわざと盗み聞きしたわけじゃないのに、雅人の黒い笑顔にさぁっと青くなる中、ルリは気にせずヘラっと笑った。
「あはは、バレちゃったー。
純ちゃんと授業サボろーってなってここに来たら旦那様たちがいたからさぁバレる前に退散しようとしたんだけど、純ちゃんがどんくさかったのー」
旦那様だって。
俺はそんな恥ずかしい台詞冗談でも言えない。
未だに雅人のスマホの登録はオカマだし。
「ごめんね。どうせうちの純也のわがままでしょ?
ほら、純也はいつまでそうしてるの?」
ひょいっとルリの上から抱き上げられ、体が宙を浮く。
こいつゴリラか!?
細いとはよく言われるけど軽々と抱ける重さではない!
「離せゴリラ!」
「あはは。今日も元気でお利口さんだねぇ」
へらっと笑う綺麗な顔を見て、つい顔が熱くなり俯く。
ガキ扱い、すんなっての。
そう思うのに、雅人のこういう柔らかい言葉は心地がいい。
「ルリくん休み時間の度にすごい囲まれてるね。お疲れ様」
雅人が俺をおろしてルリをぽんぽんと撫でる。
ルリはそれを待ってましたと言わんばかりに頬を膨らませた。
「そうだよー。千ちょっとモテすぎー。面白くないなぁ」
「知らねぇよ」
「不安なんですけどー?」
腕を組んで月城を睨むように見上げる。
いつかやきもちをめんどくさいって思われたくないって溜め込んでたのが嘘のようだ。
「オレが千くらいモテたら、千にもこのモヤモヤわかるのにねー」
「はぁ?リチェールは黙って俺だけに愛されてろ」
「ふぁ!?………う……はい」
耳まで真っ赤にして俯くルリに、俺までなんだか恥ずかしくなってうつむいた。
月城は勝ったと言うように意地悪に笑ってタバコをポケット灰皿に入れた。
「あはは。千くんかっこいー。ルリくん負けちゃったねぇ」
「負けたぁ」
顔を赤くしながら、それでも嬉しそうにルリがへにゃっと笑う。
それで機嫌を直すとか、ルリって案外ちょろいんだな。
「じゃあここ寒いし、別の場所でサボろーか純ちゃん」
「次の授業はちゃんと出ろよ」
「はーい」
月城に頭を撫でられ素直にルリがうなずく。
「純也も、ちゃんと勉強しなよ」
「うるせぇ」
俺は頭が撫でられる前にとっさにパシッと払ってしまった。
やっぱり俺は素直になれっこない。
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