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小さな挑戦状
リチェールside
「────っふ、ぁ…っ」
もう何度目かわからない射精に意識が朦朧としてくる。
出すものもなくなった苦しさのなか、目の前では千が余裕の表情でかわいいとキスを落としてくる。
家に入ってからはビクビクして近寄らなかったオレを、今回は自分から頼ったからそんなに怒ってないと優しく撫でて油断させて、この男は。
「あぅ……っも、ゆる、してぇ……っ」
「許してる。今回はそんなに怒ってないっつってんだろ」
「……っじゃあ………っひん!」
なんでこんなに意地悪なの?と続きたかった言葉は、激しく中を犯されながら、ぐずぐずになった前を握られ遮られてしまう。
「いじめたいだけ」
そう妖艶に笑った千を最後に、乱暴な快楽が押し寄せて頭が真っ白になった。
__________
「………ん」
夢と現実を何度も行き来して、腰の鈍い痛みにようやく段々と意識がはっきりとして重たいまぶたをこじ開けた。
「千……?」
土曜日だと言うのに隣には千はいなく、体を起こそうとするものの腰の痛みで断念する。
身体中残る赤い跡が目に入り、昨日の濃密な夜が脳内で再生され顔が熱くなった。
多分、千はリビングで新聞読んでるんだろうし、少ししたら呼んで一緒にお風呂に入ろう。
とりあえずベットヘッドにあるスマホを手に取り、メールとか来てないかチェックした。
純ちゃんからとゆーいちからと、草薙さんから入ってた。
仕事の事だろうから草薙さんのからチェックしていく。
内容はシフトの変更で、すぐOKの返信をした。
ゆーいちからは今度ゆーすけの誕生日だから家に来いって内容。
そして最後に純ちゃんからは、俺もついに大人になった。という謎の文だった。
なに?ついに雅人さんとしたのかな?
返信をしようと指を動かしてると、カチャっとゆっくりドアが開き、千が入ってきた。
「起きたなら呼べよ。立てねぇだろ」
立てなくした自覚あるならそばにいてよ。
「千、だっこー。一緒にお風呂はいろ?」
ちょっとムッとして甘えるように手を広げて見ると、はいはいと笑って抱き上げてくれる。
前までは千にだっこされるのも、お風呂に一緒に入るのも恥ずかしくて苦手だったけど、今は好き。
恥ずかしい気持ちはあるけど、くっつけるのが嬉しくてぎゅーっと千に抱きつく。
「おはよー、千」
「おはよ。体はどうだ?」
「腰がだるい」
「ははっ」
「ははじゃないよバカ」
穏やかな会話をしながら千に運ばれてお風呂に向かう。
すでにお湯を溜めていてくれたらしく、浴室は暖かかった。
「千、昨日の話なんだけどね」
お風呂から上がって、ソファでまったり録画してた番組を観ながら口を開くと千がタバコを灰皿に揉み消して、うんと言葉を返してくれる。
「守ってほしいとは言ったけど、累くんに関してはまだ確定じゃないし、何もしないでほしい」
「だめ。それでお前に何かあってからじゃ遅いだろ」
即答で断られ、地味にショックを受ける。
心配してくれるのは嬉しいけどオレの話聞いてよ。
「オレにちょっかい出すためでもなんでもさ、理由や感情はどうあれ、オレはやっぱり累くんがそれで周りと関わるようになったこととか、外に出るようになったことはいいことだと思うし。
綺麗事じゃなくて、オレの罪悪感も薄れるから」
「……………」
「オレは今のところ可愛いちょっかいなーんにも堪えてないし、やっぱり千を取り合うライバルにオレだけの力で勝ちたいと思うから」
「……またお前の変なプライドか」
「お願い。千」
甘えるように体を委ねて見上げると、千がぴくっと眉をしかめる。
なんでも即判断の千が悩んでるってことは考えてくれてるのだろう。
「今回オレちゃんと千に話したよー?
だから本当にやばいってなったら千にお願いするから」
「大事になって俺にバレて叱られる前に白状しただけだろ」
う。相変わらず鋭いな。
でもでも、また登校拒否になって千にべったりされるのもやっぱり嫌だし。
なにより、累くんは今しっかり向き合ってぶつかったらまっすぐになると思う。
逃げ回ってる以前の累くんより、ぶつかってきてくれる今の累くんの方がずっといい。
「千、お願い。言うことなんでも聞くから」
もう一回、服を握っておねだりする。
目が合うと千は、はーっと深くため息をついてオレの頬をつまんだ。
「……されたことはどんな小さいことでも逐一報告すること。俺が危ないと判断したらすぐ俺の言うことに従うこと。あといやがらせが落ち着くまでは一人にならないこと。この三つ守れるな?」
「はひ」
素直にうなずくと、オレの頬から指を放しオレを片手で抱き寄せてくれた。
「本当にお前は俺を困らせる天才だな」
「いつも甘やかしてくれてありがとう、千」
たくましい胸にぎゅーっと抱きついて、安心感の中、目を閉じた。
オレがこうやりたいって気持ちは基本的には尊重してくれる。
バイトだって何度もやめろって言われてるけど、オレが絶対やだと言えば最後は折れてくれる。
そしてちゃんと見守ってくれる暖かさがすごく心地よかった。
この人だけは絶対誰にも譲らない。
累くんからの宣戦布告、受けて立ってやる。
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