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小さな挑戦状

バン!!! 屋上中に響き渡るくらいの大きな音が響いて、3人がビクッと弾かれたように僕から離れる。 涙でぼやける視界の中、音の方へ目を向けるといるはずのない姿に目を見開いた。 「なん、で………」 大嫌いなのに。どうして一番辛いとき駆けつけてくれるのは、あんたなの。 「だから言ったじゃん。おばか」 そこには、汗をぐっしょりかいたルリくんが険しい顔付きで立っていた。 3人が動揺したように一歩後ずさる。 「今、月城先生も呼んだ。あと5分では来るよ。今なら、累くんにも非があるみたいだし黙ってあげなくもないけど。どうする?」 この間と同じような状況なのにルリくんは僕だけを逃がすようなことはもうしなくて、堂々と3人に近付き小さな身長からは考えられない威圧で微笑んだ。 「………お前を犯せってこいつは命令したんだぞ」 一人がその事をチクリ、びくっと体が揺れる。 お願い、ルリくん見捨てないで。 助けて。 自分でも都合のいいのはわかってる……。 「そうなの?まぁ受けて立つって言ったのはオレだしいいけど」 自分に危険が降りかかりそうだったと言うのに、ルリくんはどうでもよさそうに簡単に流して、僕に着ていたカーディガンを被せてくれた。 その温かさに思わずぎゅうっとカーディガンを握りしめてしまう。 「君たちもさぁ、高2にもなってなにやってんの?来年オレら受験だよ?自分のこと大切にしなきゃだめだよ」 動揺したように3人が顔を見合わせて、どうすることも出来ず立ち尽くす。 その様子を見て呆れたようにルリくんが小さくため息をついた。 「……ほら先生も来るし、もう逃げな。 オレと累くんが喧嘩してたってことにするから。いいよね、累くん」 呼吸がいつまでも落ち着かない僕の背中を撫でながら聞いてくるルリくんにコクコクと頷く。 それでいいから、とにかく早く三人から離れたかった。 ようやくパタパタと離れていく足音にホッと息をついた。 「なんで……」 呼吸も途切れ途切れでさっきも投げ付けた質問を口にする。 ルリくんは僕の背中を優しく撫でながら小さくため息をついた。 「昼休みから珍しくなにもしてこなくなったなーって思ってたら屋上なんて放課後は立ち入り禁止のところに入ってく3人がたまたま見えて、まさか……って思ったんだよ」 スラスラ答えるルリくんに、そうじゃなくて、と思う。 なんで、僕なんかを助けてくれたの? 僕が何したかわかってる? 「累くん大丈夫だよ。月城せんせーが来るなんてハッタリだから。知られたくないでしょ?だから落ち着いて」 優しく撫でてくれる手が、悔しいくらい心地よくて、余計に僕を惨めにする。 敵わなかったことが悲しくてボロボロ涙がこぼれ落ちた。 「……ルリくんなんて、だいっきらい」 だから負け惜しみの言葉も吐いてしまう。 「知ってる」 「偽善者」 「よく言われる」 「クソビッチ」 「あはは。今は違うもーん」 暴言を吐いてるうちに段々と落ち着いてく呼吸に体を楽になったけど、ルリくんにもたれたまま動けないでいた。 「オレはさ、神経図太いしそれくらい言われてもなんともないよー。幼稚だなって思うけど」 クスクス笑われて、いらっとしたからもたれた肩に思いっきりがぶっと噛みついた。 「あ……っいったぁ!なにしての。はなしてー」 なんで今一瞬エロい声出したの、腹立つ! 昼間はすぐ拳骨したくせに、僕が弱ってるからか乱暴に引き離したりしない。 そういうところもムカつく。 「まぁとにかく累くんさ、オレこの間も言ったように、これだけ言えるようになったなら、あんな奴ら頼らないでオレに直接言いなよ」 「うるさい、偽善者。はげ」 「はげてはないしー」 「嫌い」 「はいはい」 「なんか言い返せよ」  「えー?じゃあ……もっと頭使えよばーか。お前の脳みそ小学生かよ」 「やっぱり腹の底でそんなこと考えてた!嫌い!偽善者!」 「言わせといて君ね…」 顔をあげて真っ正面から文句を言うと、どうしようもないと言いたげにルリくんが呆れたように笑う。 その顔が、差し込む夕日に照されてとてもきれいに見えた。 「……僕は、先生がすきなの。いつもみたいにへらへら謝って、身を引けよ偽善者」 「ごめんね。オレも彼だけは譲れない。でも、ちゃんと累くんのオレに対する気持ちとか受け止めるから」 だから勘弁して、とまた困ったように笑う。 悔しくて、悲しくて、でもどこか気持ちはスッキリして、それがなんでかわからなくて、ルリくんの胸で声をあげて泣いた。

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