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四方八方

リチェールside 「ちょっとルリくん何あの女~!」 オレの胸ぐらを掴んでカクカク揺らす累くんは七海先生のことが気に入らないらしい。 「先生にベッタリじゃん!ちょっと邪魔してきてよ!」 「実習生だからでしょ?仕事なんだから邪魔しないよー」 「何大人ぶってんの!?あんなに美人でおっぱいも大きい女の人相手じゃルリくんから乗り換えるのになんの躊躇もしないよ!?」 全くもってその通りの言葉がグサッと胸に突き刺さる。 七海先生は優しくて美人で一気に生徒の注目を集めていた。 「うるせーチビブタ!お前はなんで当たり前のように一緒にメシ食ってんだよ!どっか行けよ!」 「あ、誘ったの俺」 「あ!?雄一!?」 「いいじゃん。ルリも賑やかな方がいいだろ?」 「うん、オレは累くんも一緒でいいよー。純ちゃんもプンプンしないの。ミートボール食べる?」 グチグチ文句をいう純ちゃんの口元に千に持たせた弁当と合わせて作ったミートボールを持っていくと、ぱくっと食べて満足そうに黙る。 なんだかんだ言って、累くんと純ちゃんは相性いいと思うけどなぁ。 「あ!ほらまた一緒にいる!」 累くんが嫌そうに顔を歪めながら窓の外を指差す。 千の後ろを嬉しそうについていく七海先生の姿に胸がズキンと痛んだ。 「ほら、今すぐ割って入って二人の中引き裂いてついでに幻滅されてこいよ!」 きぃー!とイライラした累くんに揺すらされながら、なんとか笑顔を保った。 「やめろ!チビブタ!ルリが折れるだろ!」 折れねぇよ。 微妙に失礼な純也がオレのことをぎゅーっと抱き寄せて怒鳴ると、ふん!と鼻をならして累くんが顔を背ける。 「でも、ルリさ。まじでガンガン二人の中に割って入ってくのはアリだと思うよ」 「そうだねぇ」 なんとか笑ってそう言うけど、出来るはずがない。 千は仕事してるんだから。 「ルリー。ルリいるー?」 四人でそんな話をしながら食後のお菓子を純ちゃんに食べさせてると、数学の武田先生が顔を出した。 武田先生は累くんの担任でもあるから、累くんがひょこっと隠れてしまう。 「なんですかー」 ニコッと笑顔を作ってドアまで駆け寄ると、武田先生が気まずそうに口を開いた。 「君さぁ、数学一番成績よかったよね」 「あー、休み明けテストでは、そうですね。たまたまヤマが当たりましたー」 そう言うと、武田先生がパンっと手を目の前で叩いてお願いのポーズをする。 「次の俺の授業さ!どうせサボるでしょ!?プリント作りしてくれない?」 「はい?」 まぁたしかに得意科目はサボり勝ちだけど、千が保護者になってくれてからは真面目に受けてるのに。 てかプリント作り? 首をかしげると、武田先生が言いづらそうに口を開いた。 「数学の成績全体的に落ちてるから、授業は進めたいんだけど、仕事が全然進まなくて……プリント束ねるだけでいいから!ルリなら一時間くらいサボっても平気でしょ?」 …………だから、仕事ができないって生徒にまで噂されるんだよ武田先生。 とは、もちろん言えず。 それ、生徒に頼むか?と思いながらも、わかりましたと笑顔で了承した。 「いいですよー。どこでやればいいですか?」 「ほんと!?助かるよー!じゃあ美術室が次の授業空いてたから、そこでお願い」 「了解ですー」 ぱぁっと表情を明るくした武田先生を見て、武田先生は成績優秀のオレに甘く、何かと融通きかせてくれるし、これくらいいっかと納得した。 それに最近、真面目に授業を受けすぎて疲れていたから丁度いい。 そんな軽い気持ちで受けたことをあとで後悔した。 授業が始まる前に教室を抜け出し、授業スタートの鐘の音とほぼ同時にドアを開けた。 「え?」 そして息をのむ。 誰もいないはずのそこには、教室で顔を会わせながらも、もうずっと話してない………シンヤの姿があった。

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