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四方八方
「ルリ……」
カタン、と座っていた椅子から信也が立ち上がりオレを見ていた。
なんで?
いくら頭のなかで理解しようにも、意味がわからずフリーズしてしまう。
向こうが一歩近づいた瞬間、思わずビクッと一歩後ずさってしまった。
「近付かないで!」
ついそう叫ぶとシンヤの瞳が傷付いたように揺れる。
その表情に微かに胸は痛んだけれど強気に睨んだ。
「なんでここにいるの?」
「……俺が武田先生にお願いしたから」
そういえば、武田先生はシンヤ所属してるバスケ部の顧問で、シンヤはエースだと前に聞いた気がする。
事情を知らないとは言え、武田先生め……と内心舌打ちをする。
大体、今さらなに?
敦や正樹とさえ最近は一緒にいるところはあまり見なく、今までとは全然違う友達といるようになっていたシンヤは同じクラスでも接点はもうゼロだった。
「……ルリに話しかけたくても、雄一が邪魔で…………一言、ちゃんと謝りたかったんだ」
戸惑ってるオレにまた一歩近付いてガバッとシンヤが頭を下げた。
「あのときは本当にごめん!すっごいバカなことした。傷付けたことを後悔しない日はない」
シンヤの言葉に、突然のこと過ぎてどうしていいのかわからず脳は相変わらず固まって働いてはくれない。
ただ、シンヤにされた行為を体が思い出して、冷や汗が頬を伝った。
「最近、黒板にひどいこと書かれてただろ………。
あれで、いてもたってもいられなかった。連絡先とか書かれてたけど大丈夫なの?」
本気で心配してるようなまっすぐな瞳に、言葉がでないかわりにひとつ頷いた。
それだけで、ほっとしたような優しい笑顔を向けてくる。
そんな顔しないでよ。
今更、許すことなんてできないんだから。
もう半年も前の話なのに、あの日の体調の悪さや、押さえ付けられた恐怖、肌を噛まれた痛みが蘇り、下唇を噛んだ。
「ルリ、俺らもう一度友達に……」
「っ!」
また向こうが近付いた瞬間、ビクッと後退り後ろに何かがぶつかった。
なに!?と振り返った時にはガシャン!!と大きな音を立てて目の前で授業のデッサンで使った花瓶が割れて破片が飛び散った。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」
こんな状況下で大きな音に一々ビクビクしてしまい、駆け寄ってきたシンヤと目も合わさず割れた破片を片付けようと手を伸ばした。
「ルリ、大きい破片は俺が拾うから箒と塵取り持っておいで。素手でさわっちゃダメだよ」
「大丈夫。オレ、一人で片付けれるから……つっ」
指先にピリッとした痛みが走り掴んだ破片をまた落としてしまった。
その姿に言わんこっちゃないとばかりにシンヤが呆れたようにため息をつく。
「ほら切った。指見せて?」
「っさわんな!」
ぞわっと鳥肌が立ち、捕まれた手を引いた。
「わっ !」
「ひ……っ」
咄嗟の行動に、シンヤの体がぐらっと前のめりに傾き、尻餅をついたオレの上に覆い被さってきた。
そして色濃くあの日が頭のなかで再生され、声も出ず体が固まった。
大丈夫?とシンヤの手が伸びてきて目をぎゅっとつぶった瞬間、ガラッとドアがスライドして室内に怒号が響いた。
「こらーーー!!授業中になにしてんだっ!」
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