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四方八方

__________ 「さいっあく……」 もう何度目かのため息をつき、項垂れる。 心配そうに覗きこんできた純ちゃんに笑顔をつくって何でもないよ、と頭を撫でた。 あのあと授業をサボった上、花瓶を割ったと言うことで、現場を目撃した先生から一週間の居残り掃除を言い渡された。 しかも、シンヤと二人で。 千になんて言おう。 とりあえず、下手に隠すより今日からさっそく居残りだしメッセージだけでも送った方がいいだろう。 出来るだけ、千が心配にならないよう気を付けながら、シンヤと居残り掃除をすることになったことを伝えた。 すぐに既読がつくはずもなくドキドキしながら返信を待ってること数十分。 帰りのホームルーム中にポケットの中の携帯が振動した。 "ダメ" 急いで開いて見た内容はこれだけ。 ダメもなにも。やらなきゃ罰が増えちゃう。 見回りをして、オレ達に罰を与えた先生も見張るらしいから二人っきりって訳ではないことを伝えても、ダメとしか帰ってこない。 埒があかない。 ホームルームが終わり、とりあえず千に説明しにいこうと立ち上がり教室を飛び出した瞬間、ドンっとゴツい胸板にぶつかり鼻の痛さに顔を歪めた。 「なに逃げようとしてるんだ!リチャール・アンジェリカ!!!!」 そこには、罰を与えた先生が鬼の形相出たっていた。 てか、リチェールだし。アンジェリーだし。上も下も全然あってない。 「先生お願い!どうしも外せない大切な用事があるの!今日だけは勘弁して!なんなら明日からオレ一人で居残るから!」 「だめだ、だめだ、だめだ!ほら!行くぞ!」 問答無用にゴリラのようなバカ力で腕を引かれ強制的に移動させられる。 丁度出てきたシンヤも、オレと違って嫌がったわけでもないのに乱暴に手を引かれた。 いや、まじでどうしよう! 焦るオレに構うことなくゴリラ先生の突き進んだ先は、昼間騒ぎを起こした美術室だった。 「しっかり反省して丁寧に掃除しろよ!30分したら見に来る。 綺麗になってなかったら連帯責任で二人とも二週間に伸びるからな!」 そしてどうせなら居てほしいのに、それだけ言い残して豪快に笑いながら去ってしまった。 気まずい沈黙が流れる。 「…………とりあえず、掃除しようか」 ぎこちないシンヤの言葉に、どうしようか少し考える。 千のとこに説明しに行こうかとも思ったけど、バレたらシンヤも可哀想だし千も立場がない。 仕方なく頷いて掃除道具を取り出した。 オレは入り口側、シンヤは奥側から、それぞれ黙々と掃き掃除をはじめて5分。 シンヤがポツリと沈黙を破った。 「あの黒板落書きしたのって、ルリがあの日威嚇した黒髪の丸っこいの?」 累くんのことを言ってるのだとわかったけど、「しらない」と短く返した。 「最近、俺バスケ部のやつらといるじゃん。雄一とか敦や正樹は元気?」 シンヤがオレ以外の人とも一緒に居られなくなったのは、オレのせいでもあるような気がして少し胸がいたんだ。 「ねぇ今度さ、また5人でどっか行こうよ。仲直り会。俺とルリさえ仲直りしたら、あいつらにも気まずい気持ちさせなくて済むと思うし」 それは、わかる気がする。 オレとシンヤの問題であの三人に気を使わせてしまってる。 オレは無理だけどほかの人は普通にシンヤといたらいいと思うけど、そうはいかないらしい。 「……シンヤ、オレね、今付き合ってる人がいて。シンヤがオレに対して当時のような感情がないにしても、仲良く前みたいに遊びにいったりとはできないよ。ごめんね」 「そっか……」 寂しそうなシンヤの声に胸がぎゅっとなる。オレなんかに許してもらおうが、そうでなかろうが、拘らないで早くいい人を見付けて幸せになってほしい。 オレにしたことなんか、忘れていいから。 シンヤはたまたま一回、オレの無神経さのせいで爆発してしまっただけで、むしろ普段は泳げないオレに付き合ってくれたり、ゆーいちと気まずい時期励ましてくれたり優しくていい人なんだから。 「シンヤのこと、許すとか許せないとかじゃなくてね。もう一緒にはいれない。 ……でも、謝ってくれてありがとう」 箒で追いかける埃に目を向けたまま話すと、いつのまにか影が近付いてきた。 顔をあげるといつのまにかお互い半分ずつ終わらしていたらしくすぐそばに居て手を止めた。 「塵取り取ってくるね」 勇気を出して謝ってくれたシンヤに、いつまでも昔を引きずるようにビクビクしていたら、シンヤが気にしてしまうからこの一週間はせめて明るくいようと笑顔を作った。

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