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四方八方
「素晴らしい!ぴっかぴかじゃないか!!!」
きっちり30分で戻ってきたゴリラ先生が大袈裟に拍手をして室内を見渡した。
お互いほとんど喋らず掃除に没頭したのがよかったらしい。
「こんなに綺麗になるなら、明日は応接室をお願いしよう。この調子で一週間頑張れよ!帰っていいぞ」
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します」
帰りの許可が降りて、早口に挨拶して会釈をするとそのまま駆け足で美術室を飛び出した。
千心配してるだろうな。
怒ってなかったらいいけど。
「ルリ!!」
名前を呼ばれ足を止めて振り替えると、シンヤも廊下に出ていた。
「明日も頑張ろうな……!」
そんな、楽しみで仕方ないって顔されても……。
気まずい気持ちのままぎこちなく頷き、また前を向いて走り出した。
とにかくたかが30分だし、そしたらゴリラ先生だって来るんだから、千にはちゃんとその説明をして安心してもらおう。
一旦教室に行って携帯をとろうかとも考えたけど、保健室の方が近いからそのまま真っ直ぐ保健室に向かった。
「失礼します!」
保健室についてノックもしないでガラッとドアをスライドさせた。
「悪い、急ぎじゃなかったら後にしてくれ」
千が振り向きもしないでそう早口に言った。
そこでは頭から頭から血を流してる生徒に千と七海先生が二人掛かりで手当てをしていた。
七海先生はすごく焦った様子で、バタバタと色んなものを棚にとりに走っていて千が冷静に指示を出している。
「月城先生、この子足や手にも怪我してます。私はそっちやりますね」
「わかった。丁寧にな。
田城、もう少しで救急車来るから、頑張れよ」
「田城くん、すぐ痛くなくなるからねー」
田城と呼ばれた生徒は意識はあるようで小さく返事をしていた。
千と七海先生の息はぴったりで、立ち入れない大人の仕事の現場って感じがした。
「……大変な時に失礼しました」
そう一言言って、ドアを閉めた。
たぶん、聞こえてなかっただろう。
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