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四方八方
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「ルーリ」
「えっ」
名前を呼ばれハッと顔をあげると光邦さんがにぃーっと笑って立っていた。
「またボーッとしてた。月城さんとなんかあっただろ?」
鋭い一言に苦く笑う。
今日はお店も比較的暇でグラスを拭いてばかりだった。
「ごめん、仕事中なのに顔に出てたー?」
「いや?なんとなーく元気ないなーって思ってさ。お兄さんが話聞くぜ。どうしたよ?」
「あはは。ありがとう。大したことじゃないよー」
自分に言い聞かせるように笑う。
そう。大したことじゃない。
千は仕事してただけで。
ただ、大人で女性な七海先生が千のとなりにいるのを見てお似合いだと思ってしまったのが悲しかった。
オレは子供だし、男だし。
オレたちの関係がバレたとき、白い目で見られるのは大人である千なのだろう。
たとえば、蒼羽さんくらい美人なら男だろうと、千の隣にいても絵になるのに。
オレは特別顔がいい訳でもない。
何からなにまで七海先生の圧勝だ。
そう思うと、言いようのない不安が胸を締め付けた。
…………たとえば。エッチひとつでも、人間の体的に、やっぱり女性がいいってならない?
不安から持たせてしまった見せ付けのようなお弁当は?
居残りで掃除ひとつで心配かけるオレってなに。
こんなめんどくさい奴、オレだってお断りだ。
「ようするに月城さんの職場に美人な女が来たから不安ってこと?」
結局、光邦さんに相談に乗ってもらって二人で洗い物をしながら話を続けた。
「しかも優しいの」
「はーん。まぁあんだけモテる人ならそれなりのレベルの女とは遊んできただろ。その上でルリがいいっていってんだから心配無さそうだけどな」
たしかに千はモテる。
この間、モールや千が記憶喪失だった時の夜にあった玲子さんだってすごい美人だった。
「オレさ、今日千にでかでかとハートを主張したデコ弁持たせて彼女いるアピールちゃってさー。やることがねちっこいよねー」
「ぶは!!!それを職場で開いた月城さんを思うとウケるな!」
いいじゃん、いいじゃんと、光邦さんは軽く笑ってくれる。
笑ってもらえると、なんだか気持ちが楽になるようだった。
「ルリくん、そろそろ時間だから上がっていいよー」
草薙さんがお客さんから解放され戻ってくると時計を指していった。
もうそんな時間なんだ。
「ありがとうございます。お先に失礼しますー」
「はーい。お疲れさま。よかったらお客さんからもらった大量のフルーツがあるから、貰っていってね。小分けして置いてあるからそこの一袋持っていっていいよ」
「え!いいんですか?嬉しいです~」
紙袋を見ると、色とりどりのフルーツに自然と気持ちが浮上する。
ぺこっと会釈をしてタイムカードを切りに裏に向かった。
着替えてそのまま裏口から出ようとすると、追いかけてきた光邦さんに呼び止められる。
「あんま思い詰めんなよ。今日にでも話し合ってみたら案外すんなり解決するかもしれないぜ」
「うん。光邦さん、話聞いてくれてありがとう。スッキリした」
「おう!じゃあ気を付けて帰れよー」
兄貴肌な光邦さんがニッと笑ってひらひら手を降ってくれるのにオレも手を降って応えるとまた会釈をして裏口のドアを開けた。
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