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四方八方
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「ルリ、たまご」
名前を呼ばれ顔をあげると、純ちゃんがあーんと口を開けていた。
自分の弁当から卵焼きを箸で掴むと純ちゃんの口に運ぶ。
ぼーっと過ごしていたら、いつの間にか昼休みで、自分で作った弁当を前に箸が止まっていた。
「肉」
「ふふっ、肉って。この野菜の肉巻きかな?」
箸で肉巻きをあげると、純ちゃんは満足そうにもぐもぐ食べる。
可愛いなぁ。小鳥さんみたい。
自分だって焼きそばパン持ってるのに。
「美味しい?」
「うまい。今度俺にも弁当作れよ」
「こんなクオリティでよかったら明日からでも作るよ」
「ハンバーグと唐揚げ入れてこいよ」
「手の込んだリクエストだなぁ」
2人で目を合わせてふふっと笑いが溢れる。
卵焼きが唯一の和食で、それ以外は全て洋食なお弁当のおかずはやっぱり日本人の口に合わないのかなぁ。
それでも純ちゃんはおいしいって食べてくれるから気持ちが救われた。
「意地汚いなぁ。自分のパン食べろよ」
「うるせーよばーか。お前に関係ねぇだろ。コイツどうせ残すんだからいいんだよ」
様子を見ていた累くんが嫌そうに顔を歪めて純ちゃんを指摘する。
それをゆーいちが喧嘩すんなよと軽く笑って正した。
「ルリ、俺眠い」
食べ終わってそれぞれお弁当を片付けると、純ちゃんが大きなあくびを溢した。
棚からコートをとってきて机にクッションを作ってあげると純ちゃんが嬉しそうに顔をすり付ける。
「お昼休み終わったら起こしてげるから寝ていいよ。寒くない?上着貸す?」
「ん」
頷く純ちゃんにカーディガンを肩からかけてあげて顔にかかった髪を指でそっとどかした。
「うげぇ。ルリくんいくらなんでも甘やかしすぎでしょ」
やだやだと、首を振る累くんに苦笑する。
甘やかしてる自覚はあるけど、可愛くてやめられない。これはもはやオレの趣味だわ。
それにオレが純ちゃんに甘えることだってあるしね。
「てかさ、ルリ朝から元気無いじゃんどうした?」
唐突にゆーいちから言われドキッとする。
態度には出してないはずなのにさすが幼馴染み。鋭い。
「え?そう?そんなことないよー?」
ヘラっと笑うと、スッとゆーいちが目を細めた。
「朝から、元気ないじゃん、どうした?」
一つ一つ区切って強調するように言うゆーいちに、う、と息を飲む。
どうしたも、こうしたも。
本当に何もなくて、ただのオレのガキ臭い嫉妬なんだよね。
笑ってごまかそうとしたけど、普段はオレの気持ち読み取って放っていてくれるゆーいちがいつになく食い下がって来る。
とは言え、吹っ切れた様子には見えるけど、累くんの前でそういう話題はよくないだろう。
へらへらっと笑って濁していると、スマホがピコンと鳴った。
マナーにしてたはずなのにと慌てて開いてマナーに設定を変え、届いたメッセージを開いた。
"ルリくん、よかったら少し話さない?"
送り主は七海先生で、小さくため息をつく。
どうせまた千のことだろう。
協力なんて出来るはずもなく、次の授業の提出の課題が終わらないからすみませんと、もっともらしい理由で丁寧に断った。
すぐにわかったと可愛らしいスタンプ付きで返信が届きほっと息をついた。
「おいこらルリ。白状しろよ」
「いーじゃん、ゆーいちくん。どうせあの乳女のことでしょー?くっだらなぁい。悩んどけって感じだし?」
鋭い累くんの言葉が胸に刺さる。
全くもってその通りだ。
下らないのも、悩んどけばってのも、よくわかる。
乳女ってニックネームはどうかと思うけど。
「なにいってんの。累だってルリの立場ならあの先生が来て不安だろ?」
「はー?不安なのはルリくんがいい奴でいようとするからじゃん。
僕なら先生に不安も不満もぶつけるしあの女にも生徒って立場とことん利用して近付かないようにする。
自分だけ綺麗でいようとしてズルいんだよこのビッチは」
ぐさぐさっと胸に突き刺さる。たしかにそうかも。
嫌なら付き合ってるんだから言えばいいのに、七海先生から聞いたんだから!って言えないのは、これ以上わがままを言って千に呆れられたくないから。
「聞いてるの!?ルリくん!」
「聞いてるぅ~」
唸るように語尾を伸ばして机に項垂れる。
その通りすぎて耳がいたい。
「まぁ、ほらルリは英国紳士だから、女性に対して酷いことはできないよ。絶対。昔、大切に飼ってた鳥を同級生の女に逃がされても笑って許してたし。その後大泣きだったけど」
「あー、懐かしいねー。フレッド元気かな」
「もう!僕にわかんない話しないでっ!」
可愛らしく頬を膨らまして怒る累くんにゆーいちとクスクス笑う。
話がそれたからちょうどよく、この話はおしまいとアピールするように携帯を触った。
そしてたまたま開いたメッセージアプリの日記で手が止まる。
つい今更新された七海先生の日記だった。
"すごくすごく悩んでる。悩みすぎて昨日全然寝てないし、ご飯もあんまり、、、。
苦しくて仕方ないのにだれも相談に乗ってくれない、、、。
友達になろうって近付いてきた男の子には今あっさり無視されたし。
私、実習二日目でいじめにあってるのかな?"
えっ、とメンヘラチックな投稿に衝撃を受ける。
それに対するコメントは、大丈夫?とか、辛いね。相談のるよ?とか男性からのものばかり。
え、これオレのこと?
一回誘いを断ったらいじめなの?
てかオレから友達になろうって言ってないし!
オレも見れるところに載せるってことはアピールだよね?
いくつだよこの人。
いや、でも。女性は弱いものだし。
英国紳士たるもの、これを可愛いって思える男にならなきゃ。
そう思うのに内心ドン引きしていた。
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