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四方八方

イライラしながらなんとか笑顔を保って我慢してると、男子生徒はスマホを取り出して誰かへ駆け出した。 「あ、もしもしルリ?俺今保健室だから早く迎えに来いよ。1分以内な」 それだけ早口に告げると自己中にも早々に電話を切ってポケットにしまう姿に呆れる。 ルリくん押しに弱い感じしたし、多分お人好しなんだ。 じゃなきゃこんな子と付き合えないし。 「リチェール何て言ってた?」 「嬉しそうにすぐ来るってよ。ルリ、俺のこと好きだよな」 「2番目にな」 「はぁー!?ルリが一番好きなの俺だし!」 ムキになって気持ち悪いことをいう生徒に月城先生は冗談っぽくクスクス笑う。 なんで月城先生が、こんなやつと仲いいのかさっぱりわからない。 さっきまで他の生徒に囲まれてたときはパソコンで仕事しながら話を聞いてたのに、今はパソコンを打つ手を止めてるし。 まさか、月城先生がゲイってことはないよね。 一瞬そんな想像をしてナイナイと顔を振っていると、コンコンと小さくドアがノックされて、カラカラとゆっくり開いた。 「失礼します。純ちゃんいますかー?」 そこからひょこっと不安げに顔を覗かせたのは今話題の少年だった。 この黒髪の子、純って言うんだ。クソどうでもいいけど。 「お前起こすって言っときながらどこ行ってんだよ」 「ごめんねー。まさか途中で起きるなんて思わなかったんだもん。ほら教室戻ろう?」 トコトコと黒髪の子が座るソファに近付くと、ルリくんは何かから逃げるようにさっさと保健室を出ようとぐいぐいとその子を引っ張った。 「今朝は変なところから出てきてたけど、遅刻はしませんでしたかリチェールさん?」 とても不似合いな敬語を使う月城先生にルリくんがビクッと肩を揺らして動きを止めた。 恐る恐る振り返ったルリくんに月城先生がにこやかに告げる。 「帰ったら話し合いだな、リチェール」 「………はい」 引きつった笑いを月城先生に向けるルリくん見て、意外と月城先生って厳しいんだって思う。 本当に親と子供みたい。 「月城先生とルリくん、本当の親子みたいですね」 怒られてシュンとなる微笑ましさにクスクス笑う。 「そうですかー?月城先生、面倒見いいですもんねー」 「さすがにこんなでかい子供いる歳には見えねぇだろ。せめて兄弟だよ」 「千おじさん、歳気にしてるのー?」 ぐいっとルリくんの腕を引っ張って指を指す月城先生をルリくんがおかしそうに顔を覗きこんで微笑む姿に違和感を覚える。 いくら一緒に住んでるからって、なんか距離近くない?   「おじさん、ねぇ」 「わっ」 引き寄せていた手をパッと放され、ルリくんが月城先生の膝の上にコケるように乗ってしまう。 すぐに顔を赤くして「ごめん!」と退こうとしたルリくんの腰を引き寄せて顔をグッと近付け不敵に笑った。 「リチェールはドMだから、俺を怒らせたいんだよな?どういじめてほしいか言えよ。その倍ひどいようにしてやるから」 「嘘です!千お兄さんかっこいい!おじさんになんて見えない!むしろオレより年下に見えるよ!?」 ボンっと赤くした顔をブンブンふる姿はまるで乙女のようだ。 その姿に満足したようにふっと笑ってルリくんを解放した。 月城先生は生徒と仲いいし、よくからかってる。 かすり傷できた生徒には「んな傷舐めときゃ治るだろ。俺に舐めてほしいの?」と言って相手を赤くしてたし、サボりで使おうとした生徒には「襲われてぇの?」と揶揄っていた。 多少、顎を指で持ち上げたり、顔を近づけたりしているとこは見てたけど、なんだかルリくんとの距離は特別近い気がする。 まさか、よね。 もやっとした気持ちはありえないと振り払って笑顔を作った。 「そういえば月城先生、もう少しでバレンタインですけど彼女さんから貰えそうですか?」 話は月城先生にふるけど、横目でルリくんを観察する。 ルリくんはいつもと全く同じの柔らかい笑顔で黒髪の子の頭を撫でていた。 「さぁ?あいつのことだから張り切って手作りとか作るんじゃねぇの」 「へぇー、手作りいいですね。でもそこは贅沢に、ゴディバとかもいいと思いません?手作りってなんか言い方わるいですけど、安上がりで終わらせられた感ありますし」 「相手は年下だからな。あんまり金かけたもの貰うの抵抗がある。俺は男に金を使わせて当たり前ってくらいのやつの方が楽だよ。今のやつは俺に金使わせるの嫌みたいだけど」 なんの感情も見せず飄々と答え月城先生に、いつもと同じ笑顔のルリくん。 やっぱり私の考えすぎかな? てか月城先生の彼女羨ましすぎ! 私とか、男といて財布出したこともないし、合うと思うんだけどなぁ。 だって、女はお金をかけて可愛くなって,男は可愛い女との時間のためにお金を払う 当然のギブアンドテイク。 私とか、月城さんが付き合うにふさわしい容姿だと思うのに。 そんなことを考えてると、ガタンと音が鳴った。 「言っとくけど月城の彼女めーーーっちゃ可愛くて優しくてエロいやつなんだからな! 頭いいし足速いし!顔とか可愛いし天使みたいだし、いつもいい匂いするし!お前にとやかく言われる筋合いねぇから!」 突然、キレたように早口に叫ぶ黒髪の子に一同唖然とする。 言われた内容にイラっと来て言い返そうとしてハッとする。 ルリくんすらあったことないらしい彼女のこと、なんでこの子がこんなに語れるの? 「純也!先生にお前とか失礼なこと言わないの!しかも女性だよ!?」 「だってルリ!この女ムカつく!」 顔を真っ赤にしたルリくんが、慌てて黒髪の子の頬を両手で掴んで顔を見合わせる。 …………もうこれ、確定でしょ。 月城先生を見ると、口元を隠してうつむいていた。 肩が揺れてるから笑ってるんでしょう。 バカにすんなし!! 絶対後悔させてやる! むしろ相手が男なら尚更イージーモードだっての!

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