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四方八方
リチェールside
謝らない純ちゃんの代わりにワナワナと震えて怒りを押さえる七海先生にぺこぺこ頭を下げて、ぎゃんぎゃん文句を言う純ちゃんを無理矢理保健室から連れ出すと、不機嫌そうに純ちゃんがなにも言わなくなってしまった。
「純ちゃん、オレのために怒ってくれるのはわかるけど、オレはあーゆーのあんまり気にしないから、純ちゃんも気にしないで?」
「……………」
「相手は先生だし、女性なんだよ?あんな言葉使っちゃダメ。純ちゃんの立場が悪くなるんだよ?そんなのオレ全然嬉しくない」
オレのために怒ってくれたのが伝わるから、あまり強く言えないけど、女性に対して絶対あんな言葉使いよくないし、なによりあんな風に嫌われ役を純ちゃんにしてほしくなかった。
「ねぇ、純ちゃん、聞いてるのー?」
「っるせぇな!!!お前が言われっぱなしでへらへら笑ってるからだろーが!!!」
まっすぐな怒りは、そのままオレへの優しい想いだとわかるから、どうしていいかわからない。
「ごめんね、純ちゃん。怒ってくれてありがとう。でもね………」
「なに!?反省しねぇし、なんなら言い足りないくらいだけど!!」
「純ちゃん……」
そのあとはどんなにごめんねって言っても、甘やかしてみても純ちゃんの機嫌が直ることはなく、ピリピリした雰囲気のまま放課後になってしまった。
居残り掃除にバイトもあるから、時間はない。
「純ちゃん、ごめんってばー。大好きだから怒んないでー」
どんな言葉を言ってもムスっとしたままだった純ちゃんにぎゅーっと抱きついてみたら少し顔が赤くなる。
何て言うか、純ちゃん本当にオレのこと好きだよね。
さっきの言葉、七海先生への牽制のためにお世辞も入ってると思うけど、やっぱり嬉しかった。
「ねぇ、純ちゃん。オレも純ちゃんのこと、優しくて可愛くていい匂いして天使だって思ってるよ。
素直で純真で本当に本当に大好きだよ?両想いなんだから仲直りしようよー」
千の気持ちなんて未だにわからないし、一番付き合いの長いゆーいちですら気持ちがわからないことがある。
そんな中、純ちゃんの真っ直ぐな言葉はダイレクトにオレへの気持ちを伝えてくれてとても安心感をくれる。
だから、なんか喧嘩しても、純ちゃんが怒ってても不安にはならない。
大好きだしかけがえのない存在だけど、千とは全然違う。
ひたすら癒しをくれる本当に天使みたいな存在だ。
「そうだ。純ちゃん、今度一緒に二人でどっかプチ旅行いく?」
さらさらの黒髪を撫でながら言うとその顔がパッと明るくなる。
やっととれた眉間の皺に内心ホッと胸を撫で下ろした。
「今度の週末にでも金曜日の夜から二泊で。近場になるとは思うけど純ちゃんの行きたいとことかやりたいこと全部付き合うから機嫌直してー?」
「…………仕方ねぇな。そのときのルリの態度次第だな!」
「よかったー。オレ頑張るねー」
まだ機嫌を直すのが照れ臭いのか、嬉しさを隠しきれてない不器用なむくれっ面がなんだか可愛い。
ちょうど仲直りできたタイミングでシンヤに掃除に向かおうと急かされ、純ちゃんから離れた。
「じゃあ掃除してくるね。純ちゃん気を付けて帰ってね」
「待ってたらダメなの」
「ごめんねー。終わったら今日バイトだから」
「……………」
「不機嫌になんないの。せっかく仲直りしたじゃん。週末何したいか決めといてね」
すぐむくれっ面になる純ちゃんの頬をつつくと噛まれそうになって、笑いながら指を引っ込めた。
「じゃあ、また明日ねー」
「ん」
ようやく納得してくれたツンデレ王子に手を振ると、シンヤと教室を後にした。
なんか、今日の掃除もバイトも頑張れそう。
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