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強さと弱さ
リチェールside
千を見送って、お洗濯ものをベランダに干した。
無心で家事をする時間は結構好き。
服を洗ったり、ご飯を作ったり、お部屋を片付けたり。
千のためにってやってること全部が楽しくて、その中に自分がいることが幸せだと実感する。
今送り出したばかりなのに、千早く帰ってこないかなって思いながら、千が寝るときに着ていた服を着て鼻に裾を押し当てた。
抱き締められてるみたいで、安心する。
掃除も夕飯の支度も、全部午前中で終わってしまって、ごろんとベランダへのドアガラスからの日があたるカーペットに寝転がった。
枕にしようとしていたクッションを両手で抱えて、空を仰ぐ。
勘違いして、一人にしてって言ったのに、泣き止むまで根気よく抱き締めて慰めてくれた。
今回、一番の被害者は間違いなく千だ。
千はいつもオレだけを信じてくれるのに、どうしてオレは信じてあげられないのか。
"お前は俺を疑うんだな"
泣き止まない俺に一言ポツリと呟いた千の言葉に胸がぎゅっと締め付けられる。
強くなりたい。
優しいあの人が、安心してオレを見てられるほど。
優しいあの人を、オレの不安が傷付けてしまわないように。
ホットカーペットと差し込むお日様の暖かさにウトウトして、段々まぶたが重たくなっていく。
昨日寝るときに千が着てた服を抱きしめてるからか、オレを包む大好きな匂いは安心感に、もう少しで夢の中、というところでカチャとドアの開く音が遠くで聞こえた。
でももう眠たくて夢か現実かわからない。
まだ千が帰ってくるはずもない時間だし寝てしまおうとしたとき、さらっと髪を撫でられた。
「リチェール、風邪引く。寝るなら寝室行け」
ハッキリと聞こえた低くて甘い声に、現実に戻され、閉じたくて仕方ない目を無理矢理こじ開けた。
そこにはいるはずのない千が優しく微笑んでオレの髪を撫でていた。
「千……?学校は………?」
「昼休み。お前のことだからほっといたら昼飯食わねぇだろ?」
そういって、千がかさっとコンビニのビニール袋を見せてきた。
……え?昼休みの一時間しかない短い時間使って、わざわざご飯届けに来たの?
いくら千がなんでも言えって言ったって、甘えていいって言ったって、お仕事の邪魔だけはしてはいけないと思ってた。
それなのに、こういう不意打ちは、ズルい。
「千、優しすぎ!だいすき〜」
たまらずぎゅーっと千に抱きついてスリスリ首に顔を擦り寄せる。
こっそり匂いも嗅ぐ。
「はいはい。嗅がない。嗅がない」
しかもバレてる。
千は呆れたように笑いながら軽々とオレの背中をポンポンと撫でた。
「俺がいないと服の匂いまで嗅ぐんだなお前」
オレが持っていた服を目で指して、どうしようもないという表情を向けられる。
だって、やっぱ寂しかったし。
「千もオレがいない日は、オレの服貸すよー?」
「お前がいない日なんて作る訳ねぇだろ」
てっきり、いらねぇよ。くらいの突っ込みが来ると思ったのに、冗談っぽく笑いながら言われた一言に顔が真っ赤になる。
………こういう不意打ちも、ズルい。
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