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強さと弱さ
「どれくらいお家にいれるの?ご飯食べる時間ある?」
「まぁ、それくらいは」
朝オレが持たせたお弁当を出され、気持ちがぎゅーっとなる。
千がいないならご飯とかめんどくさいしいいやって思ってたけど急いでテーブルを拭いて準備した。
千が買ってきてくれたのは、オレが以前好きだと言ったエビのドリア。
それから、チョコレートとか、チーズケーキとかジュースとか色々買ってきてくれてる。
どれもオレが好きなものばかりだった。
「千、ありがとう。全部オレが好きなのだー」
「ん」
千は食べたらすぐ学校に戻らなきゃいけなくて、少ししか一緒に居られないから、なんだか離れがたく、いつもは向かい合って座るのに今日は隣のイスに座った。
千がお弁当を開くのをちらっと横目で盗み見る。
よかった。崩れてない。
いつも、持ち歩いた後ってせっかく形整えても崩れないか心配だった。
「なんか自分が作ったお弁当を目の前で食べてもらうの照れるねぇ」
「いつもうまいよ」
お箸で持ち上げられた小さいゆで卵は殻からひよこが覗いてるような形にしたものだった。
28の男のお弁当にこれはちょっと可愛すぎたかなって苦笑する。
「リチェール、今度の休み佐倉がどっか行くかって」
「雅人さんが?」
「お前らの旅行計画却下したのあいつも気にしてるんだろ」
「4人でお出掛け?楽しみだねぇ。嬉しい」
「原野とどこ行きたいか決めとけよ」
「うん。ありがとう」
純ちゃん喜びそうだなって想像して、口が綻ぶ。
千がさっさと食べ終わってしまううちに、オレは半分しか食べれなかった。
千はオレが食べ終わるまで待つって言ってくれたけど、大丈夫だよって千を玄関まで送った。
「今日は早く帰るようにする。大人しくしてろよ」
「はーい」
「買うのあったら帰りに買ってくるから連絡しろ。家から出んなよ」
「はーい」
「体弱いんだから寝るなら、ちゃんと寝室で暖かくして……」
「はいはいはいはい。千さん!長い!わかったから!そんなにおしゃべりばっかしてたらちゅーする時間なくなっちゃう」
口うるさい千に服をつかんで背伸びをした。
ん、と口を閉じてキスをねだると、千が仕方なさそうに笑って唇を重ねた。
「いってらっしゃい。来てくれてありがとうね」
「ん。いってくる」
オレの髪を一度撫でて、千は家のドアを閉めた。
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