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強さと弱さ
信也side
今日、ルリ休みなんだ。
なんとなく、そんな気はしていた。
あの実習生にルリが乱暴したと言う噂が出回ったらどうしようかと思ったけど、ルリが月城のものだと薄々みんな感じているし、人当たりのいいルリは人望も厚く、加えて実習が取り止めになったことやゴリラが謹慎になったことから、みんなルリが被害者だと察している様子だった。
それでいい。
ルリを苦しめるのは俺の役目だ。
昨日の初めて見たルリの泣き顔を思い出してぞくっとする。
いつも穏やかに柔らかく笑うルリを壊してみたいとあの日乱暴なことをした。
それでもルリは泣かなかった。
謝りたかった気持ちは本当。
それから話しかけることすらできなくて、傷付けたことを後悔もしたけど。
怯えたルリの表情を見て、誰にでも同じ笑顔を見せるルリの特別になれたのだと体が高揚した。
やっぱり、俺はルリが好きだ。
泣き顔なんてみたら、もう気持ちが止まらなかった。
今日、久しぶりに電話でもしてやろうかな。
怯えて取らないかもしれない。
それはそれで可愛いな、と怯えるルリを想像して思わずふふっと笑いがこぼれた。
考え事に夢中になってたからか、肩がドンっと小さな男子生徒とぶつかった。
「………っと、悪い」
肩を一度引いて、あからさまに勢いをつけてぶつけてきた相手に、咄嗟に謝る。
相手は不機嫌そうに俺を睨んできた。
あ、こいつルリとよくいる口の悪いチビだ。
「あん!?おうコラあん!?いてぇだろうが!あん!?」
子供が覚えたての言葉を使うように「あん?」を連呼するそいつに思わず体が硬直した。
柄悪いチンピラのような雰囲気のわりに、いてぇだろうが!って……。
情けないチンピラがいたものだ。
「はーいはいはいはい。純也くん何してんの。恥ずかしい。行くぞ」
その瞬間出てきた雄一が、呆れたようにため息をつきながら雑にそいつを連れていこうとする。
「離せ!雄一!俺はこいつと喧嘩すんだよ!」
「何で喧嘩するのか知らないけど、頭でも体でもお前の完敗だから」
ルリから聞いたのか、噂で聞いたのか知らないけど、こいつらを相手するのは時間の無駄だ。
呆れて、無視してその場を離れる。
友達はたくさんいるだろルリには。
でも、俺は間違いなくルリの中で特別だ。
またぞくっと体がうずいて、口角が自然と上がった。
もう仲良くしたいなんて、思わない。
消せずにいたルリの番号に電話をかける。
数コールして、ルリと繋がった。
「…………もしもし」
警戒したような声にまた気持ちの高ぶりを感じた。
「ルリ?今から会おうよ。どうせサボりだろ?」
「………なにいってんの?」
「ダメって言うなら、月城にあの日ルリを襲った時のこと色々言っちゃうかも。そしたら月城俺のこと殴ったりするかな?」
そしたら月城、教師人生終わりだね、と笑う。
やめて!と、怒鳴られてもいい。
やだ、こわい……とか最高だな。
泣いて縋ってこい。ルリ。
どんな答えが帰ってくるんだろうと、ワクワクしながらその沈黙を待った。
けれど返ってきた言葉は、俺の予想を遥かに上回ったものだった。
「……いいよ、会おうか。
ちょうどオレもシンヤに話したいことあったし」
まさか会えるとは思わなかった。
あの俺に対する怯えようは、いくら月城の名前を出したからって会えるものとは到底思えなかった。
なに、まさか昨日の事が原因で月城に捨てられたの?
それなら最高に好都合なんだけど。
5限目を抜け出し、学校近くの公園に向かった。
そこにはすでにルリはいて、俺を見てにこっと微笑んだ。
その表情になんとなく違和感を覚える。
怯えた素振りはなく、何を考えてるのかわからない。無表情ともとれる張り付いたいつもの笑顔だった。
「なに?ついに俺のものになる気になった?」
ベンチに座っていたルリの頬にそっと手を伸ばす。
指先が柔らかい髪に触れる直前、ガツッと頬に衝撃が走った。
「……………っ!?」
突然のことに何も反応できずそのまま後ろにしりもちをついてしまう。
え…………は…………?
殴られた?………ルリに?
信じられない気持ちで見上げると、ルリがオレを殴った右手をぷらぷらさせながら俺を見下ろした。
「シンヤのものになる?冗談でしょ。お前さ、オレが誰と付き合ってると思ってるの」
不敵に笑うルリの堂々した態度には昨日の弱々しさが一切ない。
言われた台詞に月城の顔が過り、思わずルリに拳を振り上げた。
けれど拳は宙を切って、また同じところにさっきの倍の衝撃が走り、目が回わる。
俺の拳を避けながら回りそのまま蹴られたと理解した頃にはまた砂ぼこりの中地面に倒れてしまっていた。
「あの日はさぁ、熱中症になってたし、不意をついて逃げることしか出来なかったけど、オレお前より喧嘩絶対強いよ」
ルリがジャリっと砂を踏んで俺に近付き冷たく微笑んで見下ろした。
「………お前、なめてんの?
月城がどうなってもいいわけ?お前らが付き合ってるのばらしてもいいんだぞ」
余裕なその表情にイライラしながらルリの胸ぐらを掴み上げた。
スッと俺の手を見下ろして、また無表情に目を合わせてくる。
そして小さく口を開いた。
「ねぇ。手、離して。君の全てが不快なんだよ」
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