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強さと弱さ

リチェールside 胸ぐらを掴むシンヤの手を払うと一歩引いて距離を取った。 昨日、七海先生が千としたという虚言ではっきりと思った。 シンヤに何をされてもどうでもいい。 こんなやつ、どうだっていい。 ………ただ、オレが千の弱点にだけはなりたくなかった。 「受けてたってやるよ。シンヤ」 「は?」 イライラしたように睨んでくるシンヤに、オレは無感情に目を向けた。 「どうでもいいんだよ。 好きに喚いとけば?シンヤにはオレを囲うことも傷つけることもできないよ」 オレが臆病だから、千が心配する。 でも、千を誰かに取られるかもしれない恐怖に比べたら、こんなもの。 _____千を想う気持ちは、どこかでオレを弱くするだろう。 けれど、オレの弱さが千を傷付けてしまわないようオレだって強くなりたい。 千がくれた優しさとか、暖かさとか。 全部、オレを弱くも強くもする。 不安も、安心も受け止めてそばにいたい。 「その顔やめろよ……!イライラする!」 「ああ、そう。笑ってあげたらいいの?」 「俺に抱かれて気持ち良さそうによがってたくせに!」 あの日の感覚が頭に過り、ぴくっと一瞬体に冷たいものが走る。 けれど、千の顔を思い出して気持ちを落ち着かせた。 「……満足?それは思い出代わりにくれてやるよ。ただもう何をされてもシンヤと関わる気は一切ない」 「はぁ!?お前に選ぶ権利とかないっての!」 血走った目でオレを睨みながら歪んだ笑みを見せるシンヤに、ほんの少しだけ胸がいたんだ。 本当に、友達としてのシンヤは好きだった。 泳げないオレに付き合って一緒に浅瀬にいてくれたり、ゆーいちと喧嘩して気まずいときも励ましてくれた。 何度も救われた。 この人をおかしくしたのは、やっぱりオレの弱さなのだろう。 ごめんね、といってしまいそうな言葉を飲み込んで、感情を表情から消した。 _____千の手は汚させない。 シンヤがオレの体に手を伸ばした瞬間、その右手の手首を捻り上げ、地面に倒した。 「あの日と同じような体勢だね。何回やっても勝てないって分かってもらえたかな」 信じられないという顔で悔しそうにオレを睨む顔に、胸の痛みを押さえて冷たく見下ろした。 「短い高校生活であと数回しかない試合、出れなくなるなんていやだろ?バスケ部エースさん」 そのまま、捻り上げた右手にぎりりと力を込めると、シンヤが奥歯を噛み締めながら諦めたように目を伏せた。 ひどいことしてるって自分でもわかってる。 でも、もうオレは迷わない。 力の入れていた手を緩め、シンヤから身をひいた。 「……さようなら」

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