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強さと弱さ
項垂れるシンヤを置き去りにして、家に向かった。
残業しないなら、千がそろそろ帰ってくる時間だ。
時間を確認して急ぎ足で家に向かう。
オレだって、男だ。
やっぱり守られっぱなしはいやだった。
きっともう何もしてこないだろう。
今までの恐怖に打ち勝てたことに多少は落ち着く気持ちもあるけど、やっぱり後味苦い。
千が帰ってきたら怒られていいから正直にこの話をしよう。
もう怖くないから大丈夫だって安心させたい。
でもこの話をするのは明日でもいいかな。
なんだか今日はとことん甘えたい。
そんなことを考えながらマンションの自動ドアに向かうと、後ろから突然ぐんっと手を引かれた。
「っわ」
「お前どこいってた!?」
振り返ると、千が焦ってるようにも怒ったようにも見える顔でオレの手を掴んでいた。
「ご、ごめ……コンビニ行ってて……」
その剣幕に怖じ気づいて、咄嗟に嘘をつくと千は小さく舌打ちしてそのまま手を引かれた。
無言で部屋まで引かれ、嘘をつくべきじゃなかったと冷や汗がだらだら流れる。
この雰囲気、気付いてるかもしれない。
「っや」
ベットに投げられ、乱暴に服をめくられた。
「な、なに!?千、なにするの!?」
「秋元といたんだろ。佐倉がホームルームで秋元がいなかったって言ってた。どこもなにもされてねぇよな」
「されてない!されてないから服脱がさないでー!」
「やっぱり会ってたんだなお前」
「あっ」
苛立った目でオレを睨みながらも口元は笑顔でなんとも恐ろしい顔に息を飲む。
頭は完全に固まっていた。
「なにされた?……次嘘ついたら縛り上げてバイブ突っ込んで放置するからな」
「怖いよ!なにもされてない!オレの方が殴って蹴って酷いことしてきたくらい!」
物騒な言葉に即答で否定すると、千がほっとしたように表情が幾分か和らぐ。
それでもまだ、ピリピリした様子でオレを映す瞳は鋭く、怒りを押し殺すようなため息を深く吐く。
「なんで言うこと聞かねぇの」
「……ごめんなさい。でもね、シンヤにはオレからハッキリ言いたかったの。オレは千だけだからそれ以外はありえないって」
「じゃ、なんで俺に相談しないわけ」
「ダメって言うじゃん」
「……じゃあ、これから先お前はわかったって口先で言って従う気はないんだな」
「……そんな、ことは………」
千の鋭い言葉に目が泳ぐ。
オレが悪いんだけど、後悔はしてない。
この先同じようなことがあるなら、やっぱりオレは自分でも解決したいって思うだろう。
「目の前でキスしやがったんだぞ……。わかってんのか」
「だからこそ、オレがカタをつけたかったんじゃん。その気持ちもわかってよ……」
安いプライドかも知れないけど、負けたくなかった。
だれかに犯されるより、千に嫌われる方がずっと怖い。
それでも、言われた通り守られっぱなしにはなれない。
だって、もっと堂々と千と付き合っていたいから。
こんなに自分のことが嫌いなままだったら、また同じことがあった時、きっと自分の自信のなさを千になすりつけて信じることができないかもしれない。
「ちゃんとした理由はないよ。ただムカついて行動した。こんなに千に大事にされてるのに、あんなやつにビビってた自分にも。オレに付け入る隙があるって勘違いされたことも。シンヤから面白半分に電話が着て、カチンときてお前なんかになんも怖くないからって喧嘩売りたかった。本当に子供でごめんなさい」
素直にペコっと謝って、不機嫌な千の胸にそっと飛び込んだ。
嫌われたかもという不安が頭に過り、すがるように服をつかんでしまう。
「……千、嫌いにならないで?」
見上げると、千が苦虫を噛んだような顔で小さく舌打ちした。
「何回目だよ。
その顔やめろ。許しそうになる」
「うん、許してください。なんでもするから」
そう言うと、千の目がスッと細められる。
それから冷たくオレを見下ろして薄く笑みを浮かべた。
「なんでも…ね」
低い声にぞくって、体が疼く。
なんでもする。
この人に許してもらってまた優しく抱き締めてもらえるなら、なんでも出来る気がした。
「じゃあ俺はまだ許す気になれねぇし、手っ取り早くお仕置きするか。昨日もだったけど耐えられるか?」
顎を指であげられ、目を合わすと千が妖艶に微笑む。
その綺麗な顔立ちに思わず見惚れて、うっとりと口を開いていた。
「うん……いじめて……」
この人は人を従わせる魔力かなにかあるのかもしれない。
出てしまった言葉に、千がふっと笑ってオレをベットに押し倒した。
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