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大嫌い
雅人side
「………千くんまじでお疲れサマ」
千くんからの話を聞き終わって、ぶっちゃけ哀れだなと苦笑いを浮かべた。
千くんは相変わらず感情が読み取れない涼しい顔をしてタバコをくわえてるけど、俺がしつこく聞く前から話してくれる辺り、たぶん結構悩んでるんだろう。
「要するに、ルリくんは千くんに片想い感覚だから必死になっちゃうんだろうねぇ」
「あほだろ」
「いやぁー、あはは。ジレンマになっちゃってるよね」
少し離れたところでウサギに餌をあげてるミニマムコンビをベンチから見守りながらぼやいた。
俺ならお前は頭も足りないし危なっかしいんだから、黙って従え。次黙ってなめた真似したら今後の自由はないからなってくらい言っちゃいそうだけど。
怯えてたからって保留にした辺り、千くんは大人だなぁって思う。
ぼーっとそんなことを考えていたら隣から小さい舌打ちが聞こえて、千くんがベンチから立ち上がった。
目で追うと、純也とルリくんに20代前半くらいの男3人組が絡んでいて、俺も苛立ったまま舌打ちをして後を追った。
こんなほんの少しそばを離れただけで目をつけられる子をどう野放しにできるのか理解ができない。
「あの、すみません。写真撮ってくれませんか?」
もう少しで触れあいコーナーの入り口というところで頬を染めた女の子達に捕まる。
「すみません。急いでるんで他の方に頼んでください」
爽やかな笑顔ですぱっとハッキリ断ると、残念そうな顔をする女の子達を置き去りにして触れあいコーナーに向かった。
この間わずか5秒。この5秒で終わる話をあいつらは何を時間かけてんだ。
「リチェール、原野。もう餌はいいだろ」
名前を呼ばれて顔をあげた二人につられて男達が千くんと俺を見る。
目があった男ににこっと笑いかけると、気まずそうに顔をそらされた。
そのまま逃げるように離れていく男達を横目に、不服そうな顔の二人に呆れた目を向けた。
「ウサギかわいいねって話しかけられただけだよー?」
ルリくんが千くんに首を傾けながら困ったようにいう。
長めのウェーブのかかった金髪に真っ白な肌。小さな身長や大きな目、服装だって水色のニットに白のチノパンで普通に女の子にしか見えない。
純也だって服装こそパーカーにカーゴパンツで男の子っぽいけど幼い顔のせいでボーイッシュな女に見えてこの二人はナンパほいほい状態だ。
「どーせ、ウサギかわいいね。二人で来たの?一緒にまわらない?飯おごるよ。こんなところだろ」
ああ、言われてそう。
図星だったのか千くんの言葉にルリくんがへらっと困ったように笑う。
「ちゃんと断ってたよー。純ちゃんなんてすごい断りようだったよ」
「へぇ、純也なんて断ったの?」
「今楽しんでるんだけど。見てわからない?って結構ばっさり言ってたよね」
「原野は偉いな」
千くんが純也の頭をポンポンと撫でる。
いや、千くんだし別にいい。
いいんだけど、やっぱり面白くなくてやんわり純也の手を引いて距離を離した。
「とにかく二人は男に目つけられる外見なんだから、離れないでね。断ったってしつこいやつはしつこいし、俺は普通にそーゆーの見ててムカつくから。ね?」
にっこり笑って言うと、ルリくんは俺が言ったからか、素直に、はーいと聞いてくれる。
純也は癪だったのかぎゃんぎゃん喚きだした。
「うるせー!なんでお前に決められなきゃいけねぇんだよ!今日だって本当はルリと二人で旅行のつもりだったのに!」
「アホか。行かせるわけないだろ。春休みにでも北海道だろうが沖縄だろうが連れてってやるつってんだからワガママいうな」
甘やかすところは甘やかす。
ダメなものはダメ。
これでいいじゃんね。
千くんはちょっと甘すぎないかなってやっぱり思う。
「なら沖縄!!!」
それでもって、純也は何だかんだで素直だし。
これくらいのアメとムチでちょうどいいと俺は思うけどなあ。
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