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大嫌い

「ルリ!ソフトクリーム売ってる!」 「あ、純ちゃん、ダメだよ。ウサギだっこしたし先に手洗おう?」 「はぁ!?ウサギは汚くねーよ!大丈夫!」 「うんうん。でも手は洗おうね」 ……こうしてみると、純也はやっぱり幼くて、ルリくんは大人だ。 近くのトイレに純也を引っ張っていき、見てる限りかなり食は細いのに、食いしん坊の純也に合わせて間食を挟む。 ルリくんがいなかったら、もしかしたら未だに純也友達ゼロだったかも。 最近は教室でも何人かのグループのなかにいる姿をよく見かけて、ルリくんが休んでも学校に行く姿にホッとする。 いい子だけど、意地っ張りだからなぁ。 「リチェール」 千くんが財布から五千円札1枚を出し戻ってきたてルリくんに渡す。 「え、いいよ。たった300円だし」 「いいから。ほら、原野の分も。あとホットコーヒー2つな」 最初は遠慮したルリくんもチラッと純也を見て素直にお金を受け取った。 「ありがとう」 俺も出そうとしてたけど、千くんに先越されてしまったから財布を引っ込めた。 ここでいや俺が出すとかいうやり取りしたら、子供達が遠慮しちゃうしね。 純也とルリくんがソフトクリーム選びに行くをの見送り千くんにお礼を言った。 「ごめんねー。夕飯は俺が出すよ」 「いい。今回はお前が車だしてるし。ガソリン代」 「んー、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう」 二人が戻ってきたからこの話は終わり、買ってもらったコーヒーを受け取った。 純也はコーンでイチゴのソフトクリーム。ルリくんはカップで抹茶のソフトクリームを持っていた。 「お前最近和菓子っぽいのハマってるよな」 ルリくんの持つソフトクリームを一口食べながら千くんが言うと、ルリくんが頷いて笑う。 「言われてみたらそうかもー。抹茶とかおしることか大福とか和菓子ばっかり食べてるよねぇ」 「へー。俺、和菓子あんま好きじゃねぇわ」 「純ちゃんはガッツリ生クリーム系のスイーツが好きだもんね。洋菓子もいいんだけど、胃がもたれるんだよねー」 「じじいか」 すぐに子供達の会話に戻って、ソフトクリーム片手に歩く。 「抹茶美味しいよー。純ちゃんも一口食べてみる?」 ルリくんがスプーンですくって純也に向けると、ぱくっと食べる姿が微笑ましい。 「後味苦いじゃん」 「それが美味しいんじゃん」 「俺のいちごの方が美味いって。食ってみろ」 「ありがとー。うん、いちごも美味しいねぇ」 可愛いし微笑ましい反面、ちょっと仲良すぎて妬けてもくるけど、やっぱり純也にルリくんがいて良かったと思えた。 「雅人、これもういらない」 半分くらい食べたら寒いからもう要らないと純也がわがままを言い出して俺に渡してくる。 そうなるだろうって思ってたけど、俺そんなに甘いの好きじゃないのになぁ。 「純也、食べれる量のものを買いなさいよ」 「食べれると思ったんだよ。でもやっぱ寒い」 「もう。おやつ減らせよ」 「やだ」 ルリくんは対等でいたいと言って千くんを困らせてるけど、俺は無理だな。 純也は子供で恋人。 好きだし特別だけど、やっぱり生徒としても見ちゃうし、施設の子供たちと同じようにも見えてしまう。 「リチェール。お前も残したかったら残せよ」 「ううん、おいしいし、千がせっかく買ってくれたから全部食べれるよー」 「無理すんなよ」 「うん。ありがとう」 ルリくんもさすがに寒いのか少し青い顔で笑う。 あの二人の距離感は何というか、いつもどことなく他人行儀でぎこちない。 千くんは自然体なんだろうけど、ルリくんはまるで金で雇った女ですかってくらい相手が望むような言葉を返してくる。 あれが原因だろう。 あの二人は俺らより付き合ってから経ってるし、セックスもしてるだろうに、距離はなんとなく俺と純也の方が近いように見えた。 「ルリ!魚!魚に餌あげれるって!」 「はいはい。池に落っこちないでねー。手すりから乗り出したらだめだよー」 100円で売ってる餌を2つ買って二人は池に駆け寄る。 もう餌をもらえるとわかっている魚が人影に反応してピチピチと水面に跳ねた。 楽しそうに握りこぶし一杯に餌をつかんで放り投げる純也をクスクス笑いながらルリくんは一粒一粒池に落とす。 当たり前に先に餌を使い果たした純也に、半分以上残った自分の餌をあげてルリくんは、また純也の楽しそうな顔をほのぼのと眺めていた。 付き添いのお母さんかな? この子には楽しいこととか、やりたいこととかないのかな。 本当に高校生らしくない。 「あ、純ちゃん。その餌さわった手で髪とか服とか触っちゃダメだよ。すぐ手洗いに行こうねー」 「うるせー、ルリの潔癖!」 ルリくんの餌まで使い果たしてその手を服で拭こうとした純也の手をルリくんが掴むとめんどくさそうに振り払った。 ほんと、ガキかよ。 施設の手のかかるチビがこうだった。 ちょっとわがままがすぎるかな、と純也を嗜めようとしたとき。 「わっ」 「あ、バカ!」 ルリくんを振り払って体勢を崩した純也に、さあっと血の気が引く。 ルリくんが手を伸ばして純也を掴んだ。 けれどルリくんの細い腕に、男の子一人支える力はあるはずもなく、少し離れていた所で見守っていた俺と千くんの伸ばした手が宙を切った。 ドボンと、水飛沫をたてて二人が池に落ちた。

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