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大嫌い
「リチェール!」
「純也!!!」
千くんと二人で思わず飛び込もうとして、その光景に固まる。
「っつめた!!!純也大丈夫!?」
「いったぁー!!!さっむ!!やば!!」
少し離れたところではわからなかったけれど腰ほどの水位しかない池で溺れようがないものだった。
寒い寒いと騒ぐバシャバシャ二人にホッと胸を撫で下ろす。
「よかった……」
無事でよかったという安心感の後に、沸々と怒りが込み上げてきた。
「リチェール!早く上がれ!」
「はい!ごめんなななさいっ!」
池の水が寒くてか、千くんが怒ってるのが怖くてか噛んでしまったルリくんの元凶の純也が指を指して笑う。
「はは!月城こえー!ルリ怒られてやんのー!」
さっさと池から上がろうと千くんの手をつかむルリくんに対して動こうとしない姿にブチっときた。
「っるせぇボケ!!!お前もさっさも上がれ!!!バカがっ!!!!」
隣にいる千くんや関係ないルリくんまで固まる怒声を浴びせてしまった。
純也を見ると真っ青な顔で水のなかでピタッと凍り付いてしまっていた。
「………お前んとこの保護者の方がよっぽどだろ」
ボソッと呟いた千くんにルリくんが引きつって笑う。
「早く上がれ、純也」
「ま…雅人さん、こわいからー。ごめんねー、オレが純ちゃんのこと池に落としちゃったようなもんだからさー。ごめんなさい」
相変わらずすぐ庇うルリくんに、きみが謝ることじゃないでしょ、と笑顔を作りまた純也を見る。
相変わらず動かずに固まっていた。
「ほら、早く来い。来ねぇなら俺から行こうか?」
「雅人さん、こわいって!純ちゃん怖がってるから!まって!」
低い声で脅すように言うと、ルリくんが焦ったような笑顔のまま一度出た池にザブザブ入っていく。
横で千くんが、あ、ばか!と言ったのもお構いなしに純也の所に戻っていった。
「純ちゃん風邪引いちゃうよー。早く出よー?雅人さんに心配かけてごめんなさいしようねー」
子供にいうように諭すルリくんにほだされてやっと手を引かれながら一歩純也が歩き出した。
俺が来いって言っても来なかったくせにと、いらっとしてしまう。
「ったく、めんどくせぇな」
思わずガリガリ頭を掻いて舌打ちをすると、隣から千くんにバシッと二人からは見えないところを叩かれた。
やば。今のは流石に大人げなかった、と顔をあげる。
純也はすごく傷付いた顔をしていて、また固まってしまっていた。
「純……」
「もう、やだ─────!!」
咄嗟に謝ろうとした瞬間、純也の叫び声に遮られてしまった。
「俺、ルリと二人で来たかったのに!!あれもダメこれもダメ!!いい加減にしろよ!付き合ってこんなに何かする度すぐ怒られるならもう別れる!!!」
顔を赤くして喚く純也をルリくんが慰めようと手を伸ばすと、その手を掴んでずかずかと歩き出して俺達から離れた場所から這い出てきた。
「純也……」
俺が伸ばした手は、ルリくんを掴む反対の手でパシンと振り払われた。
「お前なんてだいっきらい!ルリ、行こう!!!」
"別れる"と、"だいっきらい!"のダブルパンチに動けないでいると、純也がルリくんを引っ張って離れていこうと踵を返した。
その背中が昔と重なって思わず息を飲む。
「じゅ、純ちゃん、まっ……わあっ」
戸惑いながらも純也にされるがままだったルリくんの体がふわっと宙に浮く。
千くんがルリくんを抱き上げて純也の動きを止めた。
「悪い原野。普段ならお前らの痴話喧嘩中くらいこいつのことお前に貸してやれるけど、さすがに今は勘弁してくれ」
こいつ体弱いから、と困ったように笑う千くんに純也がルリくんを見てばつ悪そうに顔を俯かせた。
間に挟まれてどうしたらいいのかわからないようなルリくんはとりあえず千くんに降ろしてもらい純也の手を握った。
それからいつものようにふわりと笑う。
「池の水冷たくてビックリしちゃったねぇ。純ちゃんあったかいココアのもー」
ぎこちなくも小さく頷いた純也に、ルリくんがほっとしたように微笑んでコートをかけてくれる千くんを見上げた。
俺もそっと近付いて、何て声をかけていいのかわからないまま純也の肩に来ていたコートをかけると、びくっとしつつも素直に受け取ってもらえた。
「この辺に銭湯ないかな?家まで距離あるし、オレと純ちゃんお風呂入りたい」
「アホか。銭湯なんてダメに決まってんだろ」
うん、ダメに決まってる。
ましてや純也だけは絶対行かせない。
相変わらずルリくんは自分の容姿に疎く、残念そうに困った顔で千くんを見上げる。
まるで誘惑してるような甘える表情に目をそらす。
「千……寒い………オレでこんなに寒いなら純ちゃん凍死しちゃうよー?」
「………ホテルな」
「ダメ!お金かかる!銭湯でいいから!」
「かけるに決まってるだろ。他のやつにお前の肌見せんな」
「な、なななにいってんの!誰も同じ男の裸になんか興味ないよ!恥ずかしいこと言わないで!」
「あ、もしもし。今からダブルの部屋二つ入れますか?」
「もう電話してるし!」
言うことをハイハイと素直に聞くルリくんらしくないし、ちょっと子供っぽくも見える千くんもかなり珍しく唖然とする。
俺は甘やかすのも、厳しくするのもいつも自分のさじ加減ひとつ。
「純也、近くのホテル行くって…。話は後でね」
そう言うと、純也はなにも言わずふいっと目をそらした。
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