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大嫌い
純也side
「純ちゃん、流すよー。目つぶってね」
ルリの柔らかな声が浴室に響いて目をつぶると優しく顎を持ち上げられ目にかからないよう髪にシャワーかけられた。
俺の髪を洗うルリの手はマッサージのように優しく気持ちいい。
「ん、できた。純ちゃんかわいいー」
体も頭もルリが洗ってくれて、洗い上がった俺を見てふふっと笑うと先に湯船に浸かるよう言われた。
荒れていた気持ちがルリの柔らかさで少しずつ軽くなるようだった。
そこそこ広い浴室にシャワーの音と湯気が充満する。
湯船に浸かりながらボーッと自分や頭を体を洗うルリを盗み見る。
真っ白な肌はきめ細かく、脱いでなお女のように見えた。
抱かれてる体だとなんとなくわかるような妖艶な雰囲気がある。
「純ちゃん寄ってー。オレも入るー」
全部洗い終わったルリは楽しそうに笑いながら湯船に入ってきた。
「純ちゃん落ち着いた?」
長めの髪を耳にかけて小さく首をかしげられると不覚にもドキッとしてしまう。
「ん。さっきは、ごめん」
「何で謝るのー。池に落ちたのはオレのせいでもあるし。
てか、なんだかんだ楽しかったよねぇ」
池に落ちたことを思い出したのかルリがクスクス笑う。
あいつらは心配して怒ってたけど、たしかに落ちたのは、なんだかんだ言って楽しかった。
「ぷっ……ははっ!落ちたとき、足つくのに一瞬ルリもがいてたよな」
「いやー、泳げないから死ぬかと思ったよねー。足つくってのにね」
二人の笑う声が重なって浴室に響く。
やっぱりルリは一緒にいて心地いい。
「鬼のような形相で俺の髪掴んだろ」
あの瞬間のルリの顔を思い出すとまた笑いが止まらなくなる。
「純ちゃんも絶対泳げないと思ったから少しでも陸の方に引こうと思ったんだもん。咄嗟に手ぇ伸ばしたら髪だったー。ごめんね?痛かったよね」
「ハゲたら責任取れよな」
「うん。純ちゃんのことお嫁さんにもらうねー。新婚旅行は宇宙にしちゃうー?」
「ばーーーか。あと俺泳げるから」
「まじで?純ちゃんのくせに?」
「なめてんのか!」
ムッとする俺に、ルリがくすくす笑ってが「わー純ちゃんが怒ったー。しずまりたまえー」とか言いながら抱きついてくる。
普段からよく抱きついて来るやつだけど、さすがに全裸で抱きつかれると、良くないことをしてる気がしてドキドキする。
ていうか、なんで怒ったからって抱きついて来るんだよ。
わけわかんねぇ。
でも、俺の他の人からは顔を顰められるようなこういう態度でもルリは変わらず好きでいてくれるんだとホッとしてる自分いる。
ストレスフリーでひたすら癒しだけをくれるようだった。
雅人といるときと全然違う。
ふいに、大嫌いだと叫んだときの雅人の顔を思い出し胸がチリっと痛んだ。
「ルリ、俺ってめんどくさいよな……」
弱気に聞くと、ルリがへにゃっと苦笑する。
「なーに?雅人さんに言われたこと気にしてるの?純ちゃんはめんどくさくないよ。可愛い」
いや可愛いじゃなくて。
てか、こいつ俺のこと可愛い可愛いって言っとけばいいって思ってないか?
「雅人さんも純ちゃんのこと心配で焦ってつい出ちゃった言葉でしょ。あんなの真面目に受け取らなくていいよ」
「そうは思えない。いつも偉そうだし。めんどくさいなら、一緒にいてくれなくていいのに」
「卑屈になんないの。心配だから怒ったのはわかるでしょー?
子供扱いされるなら大人になってやろうぜ。昔から言われなかった?先にごめんなさいが言えた方が偉いって。喧嘩両成敗でしょ。どっちも悪いんだから先にごめんなさいしよ?そしたら純ちゃんが大人だよ」
「やだ。もう別れたし。てか俺ルリと来たかったのに勝手に乱入してきた挙句なんなんだよ」
「純ちゃん、そんなこと言わないで。
せっかく車だしてこんなところまで連れてきてくれたのに雅人さんが可哀想でしょ?」
いつまでもルリと行きたかったのにと拗ねる俺を困ったように笑いながら「ごめんね、純也」って頭を撫でてくれた雅人を思い出してまた胸がぎゅっと痛んだ。
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