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大嫌い
「俺かなり酷いこと言ったし、仲直りできるかな…。ルリ達喧嘩する?」
「するする。めっちゃする。
酷いことなんて定期的に言ってるよ。
クソジジイとか、エロ親父とか。謝ってもしばらく根に持たれたりするし」
ルリはケラケラ笑うけど中々酷いこと言ってるなとちょっと引く。
普段のルリからは想像がつかない。
「ね。オレと千って喧嘩したらどっちが折れると思う?」
「え?ルリでしょ?」
「ううん。千なの」
パチャンとルリが指でお湯を弾く。
意外。月城って俺様だし、ルリは基本人にイエスマンで意見を合わせ勝ちなのに。
「千が心配する原因が自分にあるってわかるから余計に自分で何とかしなきゃってそういうスパイラルの繰り返しになったりするのに、千は何だかんだ言ってオレの気持ちを汲んでくれるんだよね。
そんなとき、余計に自分の安いプライドが子供っぽく見えてまた落ち込んじゃったり。
オレ何がしたいんだって感じだよね」
ふーっとルリがため息をついて、またへにゃっと悲しそうに笑う。
俺にはルリの気持ちがよくわかる。
恋人に子供扱いされるのって寂しいよな。
でも、ルリのことが心配で口出しばかりになる月城の気持ちもよくわかった。
だってこいつ死のうとしたくらいだし。そんな奴がどんなに自分は大丈夫だって言っても、それをどう信用しろというのだろうか。
ルリが死にそうだった。しかも、自分でしたと知った時の恐怖を月城はリアルタイムで味わったのだから。
黙り込んだ俺に、ルリが「オレの話ばっかしてごめんね」と微笑んだ。
「純ちゃんは何が悲しくて何が嫌だったのか。相手は何であんなに怒ったのか。どうしていきたいのか。そうするためにはどういう言い回しがいいのか。よく考えて雅人さんと話し合おう?先に謝るのは絶対条件だよ。そしたら意見も言いやすいしね」
なんだか難しい話に首をかしげるとルリがクスクス笑って、えーっとね、と人差し指を上に立てた。
「まず雅人さんに厳しくあれもこれも決められるのは嫌なんでしょ?なんで嫌なの?」
「ガキ扱いされてるみたいだから」
「じゃあ、心配してくれるのは嬉しいけど、子供扱いされてるみたいで寂しい。たまには俺の意見もちゃんと聞いてって言おう。相手の気持ちをまずはこっちから立てなきゃ」
「………うん」
ルリのまとめた言葉は柔らかく確かに相手に届きやすいように思えた。
俺は母さんだけがずっと全てで、大好きだけど大嫌いで、その揺れ合いのなか一人でいた寂しさをきつい言葉でしかぶつけられなかった。
言い回しを変えていたら、母さんは俺を置き去りにしなかっただろうか。
うつむくとルリに優しく頭を撫でられる。
「ま、オレも偉そうに言っておきながら、感情的になり勝ちだから、気を付ける余裕があるときに気を付けたらいいんだよー。
難しく考えすぎないで、答えが決まらなくても、とにかくそばを離れちゃダメ。本当は離したくないんでしょ?」
ルリの言葉に、雅人の穏やかな笑顔を思い浮かべて小さく頷いた。
厳しすぎて嫌になることもあるけど、休日の昼とかソファで雅人に膝枕されてうたた寝するときとか、朝起きておはようとか、帰ってきてのおかえりとか、全部手放したくない。
癒されて支えてもらってることの方が圧倒的に多い。
手放せるはずなんてなかった。
「じゃあ雅人さんにごめんなさいしようか?
でもちゃんと自分の思ってること言うんだよ?夕飯は四人で食べたいから頑張ってね」
「………ん」
素直に頷くとルリがえらいえらいと頭を撫でて浴槽からざばっと立ち上がった。
服はコインランドリーで雅人と月城が洗って乾かしてくれてるから、ホテルに備え付けの簡易的な浴衣をつけることにした。
俺もルリも着方なんてわからず、ルリがすぐググってスマホを見ながら簡単に着付けてくれた。
「じゃあ、オレが千を連れ出すから、話し合い頑張ってね純ちゃん」
隣の部屋の前まで来てルリがコンコンとドアをノックして開けた瞬間、中から二人の少し焦った声とドタン!!と音が響いた。
「どうしたの!?」
急いで音がした方に進むルリに続くと、そこで見た光景に息を飲む。
雅人が床に月城を押し倒して、キスをしているところだった。
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