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大嫌い
一瞬時が止まり、真っ先に動いたのはルリ。
「千に何すんのー!!!!」
雅人を力一杯突き飛ばして、月城を庇うように立つ。
「ち、ちがうルリくん!誤解だから!」
「事故だから落ち着けリチェール」
「事故だろうとなんだろうとキスしないでっ!」
口々に言い訳する二人の話に一切聞く耳をもたずルリが月城の手を掴んで乱暴に立たせた。
「オレは千から話聞くから、雅人さんは純ちゃんに言い訳してあげて!じゃーね!」
バタン!!とルリらしくもなく乱暴にドアを閉めて出ていくと騒がしかった室内は嵐が去ったようにシンと静まり返った。
重苦しい沈黙に、何か言わなきゃと思うのにショックで動けない。
雅人からキスしたように見えた。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を残し、いつまでもズキズキと響いて来る。
「あ、あの……純也?勘違いしないでね?こけただけで本当にわざとじゃないから」
白々しい雅人の言い訳に何だか泣きたくなってくる。
確かに別れるって言ったのは俺だから、浮気にはならないのかもしれないけど……なにもこんなに早く乗り換えなくてもいいだろ。
勝手かもしれないけど、俺は雅人にちゃんと謝って仲直りしたかった。
「………っ」
ぼろっと涙がこぼれてしまい雅人がぎょっとする。
「純也、ちょっと落ち着いて!ほんと誤解だから泣かないで!ね?」
焦ったように笑いながら言い訳ばかり言って俺を撫でようと手を伸ばしてくる。
今更言い訳なんて聞きたくなくて、雅人の手を思いっきり叩き落とした。
「大っ嫌い!!!嫌い!嫌い!嫌いーー!」
叫んだら、余計に涙が溢れた。
泣き顔を見られたくなくて俯いて逃げようとするけど、暴れる俺の手首を掴んで雅人が顔を覗き込んでくる。
「離せ!誰でもいいんだろ!」
胸が痛くて、頭がくらくらした。
優しく気遣うようにされるキスは俺だけだと思ってた。
あんな風に乱暴に押し倒されたキスなんて俺は知らない。
「いやほんと話聞いて!これ以上こじれるのは勘弁して!」
「うるさい!聞きたくない!離せ!大嫌い!!」
「純…」
「大嫌いー!!!!」
「っるせぇ!!!嫌い嫌い言うな!!」
「ひっ」
突然の怒号に思わずびくっと息を飲んでしまう。
なんで俺が怒鳴られないといけないんだよ。
裏切り者。
悔しくて、まだまだ言い足りないくらいなのに止まらない涙に邪魔されて言葉が出ない。
「……怒鳴ってごめん……」
苦虫を噛んだような顔をして、雅人自身どうしていいのかわからないような顔だった。
「……お願い聞いて。俺は純也だけだよ」
それから声を柔らかくして、俺を抱き寄せた。
雅人の優しい匂いにムカつくことに心がきゅってなる。
今更なんだよって突き飛ばしたいのに、それができない。
「さっきは俺が体勢崩して千くんに倒れ込んじゃっただけで、キスじゃない。ぶつかっただけ。
可愛い純也がいるのに浮気なんてするはずないでしょ?」
「っう……うーっ」
「お願い泣かないで。純也に泣かれたらどうしていいかわからない」
さっきの光景が頭にこびりついて雅人の言葉が素直に受け入れられない。
それなのに抱き締められると安心するし、髪を撫でられるとすがりたくなる。
それでも、捨てないでとすがることはしたくない。
そんなことをしたってバカを見るのは俺なんだから。
「純也、信じて?俺が好きなのもキスしたいと思うのもそれ以上を求めるのも純也だけだから」
「やだ……も、きら……嫌い~……」
「嫌いっていうな」
いらっとしたような声と共に俺を包む手に力が込められる。
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