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大嫌い
泣き止まない俺を抱き抱えて雅人がベットに腰を下ろす。
また手は優しく俺の髪を撫でた。
「俺、こんなに譲りたくないなにかが出来たの初めてで、自分本意になりすぎて大切に出来てなかったね。
純也のことめんどくさいとか、思ってないから。ルリくんに妬いちゃうくらい余裕がなかった」
雅人が悲しそうに笑う。
浮気されたのは俺で怒られたのも俺なのになんで雅人がこんなに悲しそうな顔をするんだろう。
胸がズキズキする。
「ごめんな、純也。こんなどうしようもない奴だけど、別れるなんて言わないで」
顔を大きな手に包まれて、懇願するように額をコツンとくっつけられる。
俺は、捨てられた訳じゃないのだろうか。
頭がぐちゃぐちゃでよくわからない。
「純也のことが大切だから、今日みたいなことがあると、怒りたくなる俺の気持ちもわかって、受け入れてほしい。本当に大切なんだ」
「ふ……っ」
目尻の涙を舌で拭われ擽ったさに身動いだ。
雅人の狡猾な嘘だろうと今はこの言葉にすがりたいと心が痛みを訴えてくる。
「純也、大好き。俺と付き合って?嫌っていうなよ」
まるで脅迫のような言葉なのに、雅人の表情はどこか不安げでこの人が傷付いていることにも胸が痛むのだと気付いた。
「お、俺も……嫌いとか、別れるって、言ってごめん……」
「うん。二度と言わないで」
ふはっと安心したように雅人が笑う。
その笑顔が幼く見えてまた胸がぎゅーっと締め付けられた。
「……俺の方が純也に甘えてたんだな」
小さく呟かれた雅人の言葉の意味はよくわからなかったけれど、俺を抱きしめる雅人の手が少し震えてることに気がついて胸がどうしてか切なく痛んだ。
好き。
どうしようもないくらい。もうこいつから離れられなくなってる。
「……俺も、雅人と別れたくない」
「うん。ずっと一緒にいようね」
……ずっと一緒にだなんて、絵空事だ。
でも今は信じたいと雅人の背中に手を回した。
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