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余波
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「千のバカ~……」
3時間ほどたって目を覚ましたリチェールはむすっと頬を膨らませて不機嫌そうに睨んできた。
「純ちゃんと夕飯たべたかったのに」
「言っとくけど、断ってきたのは向こうからだからな」
「えっそうなの?っあ」
がばっと起き上がって、腰が痛んだのか疼いたのか、リチェールがびくっと顔を歪めてまたベットに沈んだ。
気を失った後に後始末をしたときも辛そうだったことを思い浮かべ気まずい気持ちから逃げるようにタバコに火をつけた。
「まぁあっちから断ったならいいや。
オレ起き上がれないからだっこしてー?」
甘えるように手を広げるリチェールの体を抱き上げて膝に座らせると、顔をすりすりと胸に埋めてくる。
怒ってお仕置きするとか豪語して返り討ちにあったんだからもっと拗ねると思ってた。
「どうした?怒ってただろ」
「うん?だって千途中で本当に怒ってたでしょう?甘えたいの」
不安を隠すように笑うリチェールの髪を優しく撫でた。
「千はオレのこと好き…?」
「好きじゃなかったら、怒ってねぇよ」
リチェールの顎を指で上げて目線を合わせるとそのままキスをした。
「佐倉と俺が、事故だとしてもキスして嫌だったんだろ?
俺はお前が他の男に触られるだけでムカつくよ。何とも思ってないとか、あるわけねぇだろ」
我ながらダサい告白に苦笑すると、リチェールが悲しそうに顔を歪める。
「千、ちがうの。ごめんね。オレがなにかある度に千が傷付いてるの分かってたのに、雅人さんとキスしたのが嫌で、思ってもないこと言っちゃったの。わざとじゃないって分かってたのにごめんなさい」
焦ったように言うリチェールにふっと笑いが溢れる。
たしかにムカつきはしたけど、これくらいの感情ぶつけられたってリチェールを嫌いになるはずない。
「お前さ、転んで原野と口がぶつかったらどうする?」
「え?別に……雅人さんに悪いなぁってくらいかな?………っあ」
ハッとしたように言葉を止めて、リチェールが小さくごめんなさいと謝る。
リチェールの自称お仕置き楽しめたし別にいいんだけど。
「まぁ、俺も悪かったよ。俺もお前が事故だとしても誰かとキスするの許せる自信ないしな」
「……ヤキモチ?」
「ガキっぽいだろ?」
苦笑してリチェールを見下ろすと、ふにゃっと嬉しそうに笑った。
「両想いみたい……」
「……自覚ねぇならもう一回意識飛ばすまでヤ」
「超両想い過ぎるよねオレら!」
焦ったように言うリチェールにふはっと笑ってしまう。
超両想い過ぎるってなんだよ。進学校の学年首席の言葉とは思えない。
「リチェール愛してる」
頬を撫でてそう言うと、顔を真っ赤にさせて自分の方が愛してると飛び付いてくるリチェールの背中をいつもと同じようにぽんぽんと撫でた。
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