426 / 594
となり
________
「俺たばこ吸ってくるねー。千くん、ちびっこ達お願い」
動物園についてしばらくすると雅人さんがタバコ片手に喫煙所の看板に向かった。
雅人さんはわかりにくいけど、純ちゃんはやっぱりどこか雅人さんに冷たくてぎこちない。
「千、オレ純ちゃんとそこのポニーに餌あげてくるね」
「はいはい」
今いるベンチから目に入る場所のポニーを指差して千から了承を得ると、ボーッとしていた純ちゃんの手を引いてそこに向かった。
100円を払って餌をもらうと、人のいない方に向かいながら餌を純ちゃんに渡す。
「はい。どーぞ」
「俺いいよ。ルリあげたら?」
いつもなら大はしゃぎで餌をあげる純ちゃんがぼーっとどうでも良さそうに木で出来た柵に手をかけてポニーを見つめた。
おかしい。おかしすぎる。
気になるって言うか、だんだん心配になってきた。
もしかしてかなり強引に……それこそ強姦みたいにされたんじゃないだろうか。
どくん、と体が震える。
いや、ないよね。そんなこと。
「ねぇ、純ちゃ……」
「ルリ、お前月城とうまくいってる?」
「へ?」
言葉を遮られ、きょとんと純ちゃんを見ると目が合い、顔を真っ赤にされてそらされた。
「オレと千はうまく行ってるよ。それより純ちゃん今日変だよ?雅人さんと何かあった?」
「べ、別に普通だよ!」
「普通じゃないよ!雅人さんと何かあったんでしょ?したの?まさか無理矢理されたとかじゃないよね?」
心配でつい捲し立てるように肩をつかんで言うと、純ちゃんが逃げるように後退る。
いくら雅人さんでも、純ちゃんを傷付けるようなら許さない。
そしてなにも相談してくれない純ちゃんにも苛立ってしまう。
「おい、言えって!純也!守ってやるから!」
「あー!もう!!何かあったのはお前だろーがっ!!
「はぁっ!?」
純ちゃんに掴みかかる手を振り払われ眉をしかめる。
オレ?
意味がわからず首をかしげると純ちゃんが顔をさらに赤くして睨んできた。
「お前月城に強姦されてない?」
「はぁ?されてるわけないじゃん」
「じゃあ昨日の悲鳴なんだよ!」
「昨日?悲鳴ってな………」
なんの話?と続ける前に全てを察して顔がカッと熱くなった。
「ま、まってまってまって!あそこのホテルそんなに壁薄いの!?」
そうは見えなかったけど。
それに、オレらが千と雅人さんの部屋に入れたのはドアストッパーがされてたからで、部屋はオートロックだし鍵は間違いなくかかってたはずだ。
「……ルリが換気しよってフロあがってすぐ小さい窓開けたの覚えてる?」
「あ!!」
「俺らの部屋も途中で開けてさ、もうやめて、抜いてって辺りから微かに聞こえてたよ………」
「わあーーー!!言うな!!」
純ちゃんの口を両手で押さえると、呆れたようにふ……っとため息をつかれた。
待って、オレすごい恥ずかしい勘違いしてた。
だから純ちゃんの様子変だったんだ。
うわ、最悪。あれ聞かれてたとか。
「………ごめん。忘れて。超全力で忘れて」
「俺だって忘れてぇわ」
はぁーーーっと深く、深くため息をついてその場にしゃがみこんだ。
……あれ?
でも、それならなんで雅人さんにまで変な態度なの?
2人が纏ういつもと違う雰囲気の原因がオレ達の声が原因だとは思えない。
顔をあげると、純ちゃんがまたぼーっとした顔をしてポニーに餌をあげていた。
こいつ……。
「純ちゃん、やっぱ雅人さんとヤっただろ」
ズバッと聞くと、手に持っていた餌を小さいバケツごとドサドサっと落として固まった。
ばっと振り返った純ちゃんはオレと目を合わせると顔を真っ赤にさせて口元を手の甲で隠した。
「やだー!!やっぱしてんじゃん!正直に吐けよ!」
「う、うるさいうるさい!!お前らのせいだろ!!」
ようやく白状した純ちゃんがそう叫ぶと見る見る目に涙を溜めた。
「じゅ、純ちゃん?」
なんで泣くの?と、優しく笑って髪を撫でると、溜めた感情を吐き出すように純ちゃんがわーっと泣き出した。
「ルリぃ~!俺もうエッチ二度としたくないっ!」
そうがばっと抱きつかれ、体が硬直する。
やっぱり無理矢理されたの?
あの、雅人さんが?
とにかく二人でゆっくり話したい。
ふーっと息をついて一旦気持ちを落ち着かせると、ぐずぐず泣く純ちゃんの手を引いて千とは少し離れたベンチに腰を下ろした。
ともだちにシェアしよう!