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となり
「そんなに嫌だった?」
感情が読み取れない雅人の言葉に、なんて返していいのか分からず、口を結ぶ。
いっそ嫌だったとはっきり思えたら、スッキリもするのだろうか。
「なんか言えよ。ルリくんにばっか甘えてさ」
雅人の声はやっぱりどこか不機嫌そうで余計になにも言えない。
「放し……っ」
「純也がそんなに嫌だったなら、もうしない。それでいいでしょ?」
なにも答えない俺に痺れを切らして、吐き捨てるように言われた。
気持ちが複雑すぎて整理がつかないのに、どうして雅人は待ってくれないんだ!
「放せ!!」
雅人の手を思いっきり振り払うと正面から睨み付けた。
「お前はいいよな!初めてじゃないし、慣れてるし男としてもすることは一緒なんだから!」
俺は初めてで、自分の体じゃないようなこれまでにない感覚に怖かったし、不安だった。
堪えてた言葉を投げ付けると、ぼろっと涙も溢れた。
「純……」
雅人が戸惑いながら伸ばして来た手を、また振り払う。
雅人に無理矢理されたなんて思ってない。
俺だってこのまま身を委ねていいと思ってた。
でも。
「俺のこの純情な感情はどうなんのっ!!」
周りに人がいないとは言え、そう声を張る俺に雅人は気まずそうに笑う。
「そんな歌あったよね」
「やだもうお前嫌い!!!」
「嫌いって言うな」
俺の気持ち全然わかってない!
わっと泣き出した俺を雅人がよしよしと抱き締める。
やっぱり前から包まれると、皮肉にも安心してしまう。
「うーーっ雅人のアホ。ハゲぇ」
「はげてない。はげてない」
ぼろぼろ泣く俺を雅人が困ったような声をしつつも優しく撫でてくれる。
「ごめんね。純也が可愛いからおじさんがっついちゃった。怖かったね」
雅人のこと好きだけど、俺はまだキスとか、エッチより、こうして抱き締められる方が好きだ。
でももうしないって言われると不安だなんて、わがままなのはわかってる。
「……っうん」
俺を包む雅人の背中に手を回した。
「………ま、さ……ひとの、こと……好きだよ……でも、怖かったぁ………っ」
また、ぼろぼろ涙を流す俺を雅人が優しく笑って撫でてくれる。
怖かったけれど、やっぱり雅人としかああいうことをしたくないって思えるし、不安なときはこの胸のなかにいたい。
色んな複雑な気持ちの渦のなか、たしかな気持ちを抱き締めた。
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